そのま白き体、月明かりに染まりて

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「何でこんな勝手な事を言えるんだ、近頃の若い奴ときたら」 それはちょうどNHK の紅白歌合戦でAKB 48の大島優子がAKB を卒業しますと叫んだ直後のことだった。 私と母は台所で出来上がったおせち料理を重箱に詰めながら、そんな父の声を背中で聞いていた。 「ダメよ、あんな言葉にいちいち反応したら」 眉を細めながら母が耳元でそう囁いた。 「うん・・・」 大島優子に云ったんじゃないのは分かってた。場をわきまえず時をわきまえず事に及ぼうとしている私への警告だった。 あと数時間で年が開けようという大晦日の我が家に私の存在は彼にとっては招かれざる客なのだろう。何よりも自分の世界を大切にする人だから、この今日の日は一年の中で特別な意味があるのだろう。 でも例え招かれざる客と思われようとそれでも何より助けが必要だった。今の私にはお金が必要だった。遅れがちだったアパートの家賃は働き手が一人居なくなったことで払えなくなる状況は目に見えてる。 身重の状況で今まで以上の収入を得るなんて絶対無理。 こうなってああなって、今の自分の精神状況も含めてこれから先どうなるか、どう追い詰められるかが読めていた。
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