人間ゲーム

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 わたしは小さな子どもだった。  隣には、小さなクラウドもいる。  わたしとクラウドは他に同世代の子どもがおらず、いつも一緒にいた。しかし、わたしとクラウドは決して気がとても合うわけではなかった。  その日、わたしは家の前でひたすら父の帰りを待っていた。何十年かぶりに父が人間世界から戻ってくる日だった。わたしが物心つく前から、父は人間世界に行って、眠ったままだった。 「お母さん、お父さんはどうして行ってしまったの。わたしといたくないのかな」  クラウドには父がいる。わたしにはどうして母しかいないのかと、寂しさのあまりに尋ねたことがある。  母は困って眉を垂らしながら、わたしの頭を撫でた。 「お父さんは、聖に早く会うために、早く終わるゲームを選んだのよ」  父は人間世界で若くして死ぬ。寿命は何歳かくらいのおおよその設定は最初から決まっている。生まれてからそれまでの試練の内容はゲームの進め方によって変わってくる。  ゲームの設定を聞かされていた母は、父の人間としての命日に、ご馳走を用意して帰りを待っていた。 「帰ってきた!」  ノックがきこえ、わたしは嬉々として叫んだ。父はどんな人だろう。  わくわくして開けた扉の先で一番に目に入ったのは、鮮やかな赤色だった。何層にも重なった赤に、緑がのびている。これは一体なんだろう。  大きな四角い板に描かれたそれが退けられると、後ろには髭が伸びきって、髪もぼさぼさの男性がいた。 「ただいま。聖」  よく知らない父らしき男性に撫でられた頭は、とてもくすぐったかった。 「聖と母さんにお土産だ。薔薇という花の絵だよ」  父は画家としての人生を送ってきたらしい。
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