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夜通しパーティーは続いた。
浴びるように酒を呑み、歌い、踊り、母が腕を振るった渾身のご馳走に舌鼓をうった。わたしが好きな母のオムライスが出てきたのが一番嬉しかった。鶏肉の入ったケチャップライス。それを包むふわふわ卵。上にかけられたケチャップで、「おかえり」と丁寧に書かれている。少し丸いが整った母の字ですら、懐かしさを感じた。
七七年ぶりの好物の味は、少ししょっぱい涙の味がした。それをみて笑うクラウドに久しぶりに怒ったり、昔のように戻るために一晩もかからなかった。
「クラウドはぁ、どうして、神候補生に、なろうとしたの、ですかぁ?」
呂律の回らなくなった舌でわたしがきく。グラスをテーブルに置こうとすると、思いの外、強く当たってぐらついた。それを隣からクラウドも支えてくれる。
「はぁ? おれが暇だっていったら、お前が誘ったんだろ。おれは遊ぶ相手がいなくなるから、ゲームを楽しんでいるだけだ」
酒の強いクラウドは、またも、空になった己のグラスに酒を豪快に注ぐ。
そぉだっけぇ、とわたしは言うが、酔った頭では思い出すこともできない。シジマじいさんに至っては、もうとっくに酔いつぶれて、地べたに寝ている。
おいしそうに酒を呑むクラウドにわたしがグラスを差し出すが、今までは注いでくれていたクラウドも、わたしの様子をみて流石に首を振った。
「そういうお前は、自分の理由は覚えているのかよ」
「もっちろぉん」
本当かよ、とクラウドは上機嫌に笑うが、これは酔っていても本当に覚えていた。
わたしは母に酒のつまみを取り分けてもらっている父をちらりとみた。クラウドの両親と語り合っている。力の抜けたあの時の表情とは違い、今は、頬を赤らめ口角もあがっている。
わたしが、父の代わりに神を目指す。
ゲーム世界に行く前に、父にそのことを伝えると、父は猛反対した。
このゲームはそんなに簡単ではない、死ぬ苦しみを生きる苦しみをわざわざ味わう必要はない、あそこは修行の場であって楽しいゲームとは全く違う、お前の意志はどこにある、おれに気を使うな……。
様々な言葉を使って、父はわたしを引き留めた。しかし、わたしは反対されればされるほど、人間世界に行く意思を固めた。ずっとゲーム世界に行って家族を放っていた父なんかに、わたしの道を決められる筋合いはない。
反対されても、わたしは神候補生になるための申請を通した。一人では不安だったので、クラウドも誘った。特にしたいことなどなく、刺激のない日々に退屈していたクラウドは、目を輝かせて協力してくれた。
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