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神候補生の試練は、先にクラウドに与えられた。
緊張の面もちでシジマじいさんの翼に包まれるクラウドを、わたしも見守っていた。クラウドは平静を装って、何とか冗談を言ってみるも、うまく笑いをとれないでいる。
まれに、帰ってこない候補生がいる。ゲーム世界でなにが起こったかはわからないが、そんな危険なゲームに軽い気持ちで友人を誘い、先に友人が挑戦することになる。その時ばかりは、クラウドを誘ったことを後悔した。
クラウドはすぐに帰ってきた。驚くほど早かったので、翼の初期不良かとシジマじいさんを問いつめた。帰ってきてからずっとぼんやりしているクラウドは、記憶が混濁していた。焦って怒るわたしに、シジマじいさんは慌てて店から怪しげな琥珀色の薬を出してきて、クラウドに飲ませた。
クラウドはしばらく眠りにつき、次に起きると、焦っていたわたしとシジマじいさんをみて笑い出したのだった。
「わりぃわりぃ、今回のゲームの寿命を先に言っておくべきだったな」
クラウドが体験した人生は、わずか〇歳で終わっている。死産児の人生だった。
「ずっとゲーム世界で、母親の腹の中だった。普段は居心地いいんだけど、母親が仕事に行くと、どんどん狭くなっていくんだ。その間に父が不倫しているのを、母は知っていたから。そのうちおれも息がしにくくなって、母親は入院を勧められたが……」
ばつが悪そうな顔で、クラウドは言った。
「本当は、おれ、人間になったら、女遊びしたかったんだよね。神様にもそう申請したんだけど、おれは寿命の短いゲームだって言われて通らなかった。耐えてなんとか無事に産まれようとしたんだけど、胎盤越しに母親の気持ちが伝わってきて、だめだった」
正直なクラウドらしい告白に、わたしは笑えなかった。クラウドはわたしに笑ってほしかったようで、深刻になってしまった空気に困っていた。こういう空気は苦手らしい。
クラウドの使っていた翼が空いたので、今度はわたしが使うことになった。初めて入る翼の中は、実に寝心地はよかったが、冷たく、家のベッドのような、自分のにおいに安心することはなかった。
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