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光で表示された文字に、わたしは何が起こっているのかわからなかった。わたしは死んだのではなかったのか。意識があるなら、家族はどこにいるのだ。
まわりはなにかふわふわしたものに包まれている。それが布団のようにとても気持ちよく、肌を撫でる。
己の体温でまわりは暖かい。病に蝕まれていたはずの身体はもう痛くも痒くもない。布団のようなものに包まれきって、ここからどうやって抜け出せばいいのか、わたしは手をできるだけ持ち上げてみて周りを触ってみる。
しばらく探っていると、どこかに切れ目があったのか、手首まですっぽり抜ける場所があった。そこから出てみようとするのだが、なかなかうまく出られない。
「どんくせぇな」
どこからか、低い声がする。ち、と軽い舌打ちが聞こえたかと思うと、外に出ていた手が何者かに掴まれ、ぐいと強引に引き上げられた。
白くまぶしすぎたところから、真っ青なところに突然抜ける。目は変化に追いつかずに思わず一瞬閉じた。
数秒後、ゆっくり目を開けると、寝ていた柔らかい場所に座らされたわたしを、腕を組んで背の高い男性が見下ろしていた。短い金髪に碧眼。黒い制服に白いマントを纏っている。
身体を起こすと、くらりと軽い目眩がした。振り返って、寝ていた場所をみると、大きな二つの翼が広がっていた。これにわたしは包まれていたようだ。
自分の身なりを見おろしてみると、白いマントこそないものの、黒い制服は男性と同じ物のようだった。
まわりにはわたしが寝ていた翼だけでなく、たくさん翼が並んでいる。重ね合わさって閉じられた翼もあれば、広がっている翼もある。きっと閉じられた翼には、わたしと同じように、誰かが寝ているのかもしれない。
なるほど、ここは死後の世界ということか。わたしは勝手に解釈した。生前は、死後は無だとか、生まれ変わるだとか、色々言われていたが、天国というものがあったらしい。空の上だからあたりは真っ青なのだ。
とすれば、この目の前の男は天使か。随分ふてぶてしい天使だ。
「ほら、立てよ。次のゲームの準備しようぜ」
「ゲーム?」
よくわからないことを言う天使だなと思ったが、天国の新米のわたしがわからないことばかりで当然なのかもしれない。無知はこの天使ではなく、わたしだ。
「まだ記憶が混濁しているようだな。少し身体がだるいだろう。いいものを飲ませてやるから、ついてこい」
男の天使は背中を向けてマントを翻すと、手を頭まであげて、肩越しに手招いた。
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