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さっきまで寝ていた翼から降り立つと、地面は固く、透明だった。天国といえば雲のイメージがあったため、これは意外だった。触ってみると、ガラスのような、溶けない氷のような素材だった。水晶だろうか。
透けて見える下の景色も、ただ、真っ青だ。空の青にしては薄雲ひとつなく、上空も、水晶のようなものに透ける地面も、不気味なほど青い。空に浮いているような浮遊感があるわけでもなく、ただ、切れ目のない水晶のようなものが延々と続いて、透明なわりに、下の世界の存在を感じさせない。
思っているような天国とは少し違う気がして、わたしは天使に声をかけた。
「あの……ここは天国ですか」
「天国ぅ?」
天使は素っ頓狂な声をあげて、腹をかかえて大声で笑った。
「やっぱり帰ってきたやつらはそう言うよな。ここが現実世界なのに」
「え、ここは天国で、あなたは天使ではないのですか?」
「だから違うって。おれらは友達だろ?」
ともだち?
首を傾げるわたしに、やっぱり忘れてるかぁ、と、先ほどまで天使と思っていた彼は苦笑した。
「仕方ないよな。おれも帰ってきたらそんなもんだ。気にすんな」
ぽんぽんと軽く肩を叩かれる。正直、まだよくわからなくて気にする余裕もないのだが、彼の気を悪くしないように頷いておいた。
それよりわたしの頭にあったのは、がっかり、という気持ちだった。せっかく天国に来れたと思ったのに。楽園生活が待っていると思っていたのに。
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