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店主は目が悪いのか、眉に皺をよせてわたしの顔をしばらく凝視した。数十秒の沈黙が流れた後、ようやく、おお、と手を叩いた。
「ひじり、あの聖か。何年ぶりじゃ?」
店主はわたしに聞いてきたが、何を言われているのかわからない。わたしが首を捻っていると、彼が助け船を出してくれた。
「じいさん、聖はまだ帰ってきたばかりで記憶が混濁しているんだ。聖、おまえは何歳で死んだんだ?」
ここにくる前の話か。わたしは頭を巡らせた。生前の記憶を思いだそうとすると、少し頭が痛む。
「えぇと……たぶん、七七歳」
「七七年ぶりじゃな。向こうの世界では、喜寿、というんじゃっけな」
店主は生前の世界をよく知っているようだ。連れてきてくれた彼は、へぇーそうだっけな、と店の棚を物色しはじめた。
「じいさん、聖は記憶混濁してるようなんだけど、薬の在庫あるか?」
「どれ、薬棚の五列目三段目を見てみぃ」
「じいさん、ここはただの胃薬だ」
はて、と店主は首を傾げる。じいさんに薬がいるんじゃないのかと彼は呆れかえり、薬棚を一段一段、順番に一つずつ見始めた。
よぼよぼの店主は探す気がないようで、よっこらせ、とレジカウンターに置かれているスツールに腰掛けた。彼だけが薬を探し、わたしは手伝おうにも何を探しているのかもわからない。手持ち無沙汰になり、暇そうな店主に声をかけた。
「あのう……」
店主はびっくりしたように頭をあげた。どうやら、今の一瞬に眠りかけていたらしい。呑気な店主だ。
「お伺いしていいですか」
「なんじゃ」
安眠の邪魔をされて、少し不快そうな店主だったが、彼が薬を探してくれている間に爆睡されても困るので、わたしは話を続けた。
「この世界はなんですか」
店主は唸った。やはり記憶が混濁するか……、と呟いて、わたしの問いに答えた。
「天国の前の世界。神候補生養成世界じゃ」
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