人間ゲーム

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「神候補生? 養成世界?」  聞き慣れない単語に、わたしは聞き返す。 「さよう。この世界を統べる神は、全知全能であるために、様々な訓練を経てきた神候補生から選ばれる。その者たちの生きる場所じゃ。聖も神候補生なのじゃ」  いきなりそう言われても、はいそうですかとはいかない。わたしは首を捻った。 「でも、わたしは生前、人間でしたが」 「ああ、そこからわからぬのじゃな」  店主はうーん、と唸った。どのように説明すべきか、とぶつぶつ呟きながら続ける。 「聖が生前いたところは、虚構なのじゃ。ここが現実なのじゃ。聖は七七年間、夢をみていた」  七七年も眠っていた、今まで現実と思っていたのは全て夢だと、信じがたいことを言われて、わたしは顔をしかめた。 「でも、わたしは、確かに生きていました」 「ふむ。でも、それは実にリアルなゲーム世界でしかない。神候補生は、様々な人生を体験するというゲームを、何度も繰り返す。聖がいた世界では、生まれ変わりと言われていたかもしれないが、全てはこの世界から始まっているゲームにすぎない」  わたしがいまひとつわからないような顔をしていると、店主は、例えばじゃ、と言った。 「神候補生が、商人になる人生ゲームをプレイするため、羽根の中で眠りにつく。夢でその者は商人として苦悩しながらやっていく。一生を終えると、その神候補生は眠りから覚め、商人の経験値を得て帰ってくる。  次は、アーティストになる人生ゲームをプレイする。また帰ってくると、その神候補生は商人もアーティストとしてもスキルを持っている。  それをゲーム世界の人間は、商人の頃を前世とよび、アーティストの頃を今世と呼ぶ。次に政治家になるゲームをプレイするとしたら、政治家が来世ということじゃな」  少し話が見えてきた。しかし、にわかには信じがたい話だ。 「神候補生としての記憶が混濁しておるなら、仕方あるまい」  そう宥められるが、これこそなにかの夢だと思ってしまう。実はまだわたしは何とか生き残っていて、病室のベッドで、死ぬ間際に夢でも見ているのではないか。
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