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わたしが頬をつねってみていると、「あったあった!」と彼が叫んだ。勢いがよすぎて、薬棚をみるのに使っていた脚立が揺れ、バランスを崩しかけている。
なんとか静止した彼は、ゆっくり脚立から下りて、なにかを持ってきた。
琥珀色の蜂蜜のようなさらさらの液体が小瓶に入っている。彼はそれを、とても小さな計量カップに量りいれ、商品棚から勝手に持ち出したらしいグラスに注いだ。
そこに、店主が示し合わせたように店の奥の冷蔵庫から、透明のものが入っているボトルを持ってきて、皺だらけの震える手でそのグラスに注いだ。
すると、そのボトルは炭酸水だったのか、しゅわしゅわと泡だった。不思議なことに、炭酸水と琥珀色の液体は混ざり合わずに、グラスの中はまっ黄色にはならなかった。透明な液体で満ちて、ぷつぷつと弾ける泡だけが琥珀色なのだ。
「これを飲みなさい」
差し出され、受け取ったはいいものの、果たしてこの謎の飲み物を本当に飲んでいいものかどうか。毒ではないか。何かだまされているのではないか。
わたしが逡巡していると、彼がぷっと笑った。
「安心しろ。お前はもう死んでいる」
なるほど。それもそうだ。
わたしはグラスを傾け、一気に喉に流し込んだ。
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