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さらっとした飲み心地かと思った。
しかし、数秒後、炭酸が弾けたように、甘ったるい味が胸から喉に広がり、胸焼けがするようにまでなっていく。
おえ、とえづくが、吐くほどでもない。
まるで、固める前のキャンデーをそのまま大量に飲んでしまったかのような甘さだった。
「効くまで休んでろ」
彼は売り物らしきソファにわたしを倒した。店主も慣れているようで、特に何もいわない。倒れると、一瞬、胃の内容物があがってきそうになった。わたしは気持ち悪さで返事する余裕もない。
「しかし、じいさん、記憶が混濁するような翼は売っちゃいけないんじゃないのか」
うーむ、と店主が唸る。顎髭を触りながら、わたしの様子をよく見ている。胃の中身はおさまったようで、先ほどのように立っているより、こうして横になっているほうが楽なように思えてきた。
「なかなかうまくいかんのじゃ。リアルなゲーム世界でないと、神への修練にならん。いかに多くの立場に立ち、多くの気持ちをリアルに知っているかが、神への道の鍵じゃ」
「毎回忘れてりゃ、意味ないじゃん」
「それもそうじゃが」
話を聞いていると、どうやら、あの翼が人間世界を体験させる装置らしい。
薬が効いて、頭が痛む。人間世界の体験してきた出来事が、だんだん妄想、フィクションに思えてくる。
今のこの世界への懐かしさが膨らんでいく。彼の名前は、たしか、く、く、くる、くらうど。そう、クラウドだ。店主は、し、シジマじいさん。
そうだ、そうだ。どんどん思い出していく。
わたしとクラウドは小さな頃から、ずっとシジマじいさんの子ども向けのゲームで遊んでいた。失敗作から成功作まで、様々なゲームをわたし達が試した。シジマじいさんは子どものわたし達の意見を尊重した。大人になり神候補生になると、シジマじいさんが二〇年かけて作り上げた翼を、わたし達に試させるようになる。実験台とわかりながらも、一番に新しいものに飛びつくわたし達は、それだけゲームが好きだった。
思い出していくたびに、頭の痛みはひいていき、身体のだるさもなくなっていく。わたしは辛さから、懸命に思い出して、早く楽になろうとした。
「そんな無理しなくてもいい。寝てろ」
クラウドは店のカウンターにあった毛布をとると、ばさりとわたしにかけた。随分長いこと天日干しされていない、湿気ったにおいがした。シジマじいさんのものだろうか。
くるくると目がまわる。気持ち悪くて、わたしは目を閉じた。そのまま眠ってしまったのか、そこから記憶は途切れた。
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