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顔じゃない
結婚式でケーキ入刀するのが夫婦初の仕事……。
そんな写真に写る自分の姿が頭をかすめる。
「ダメ!! 恥ずかしくてウエディングドレスなんて着られない」
「それならキモゥノは?」
薄茶色の瞳が輝く。サムライ映画にご執心の彼の名前はロニー。私と婚約したばかりだ。
大の親日家だから、白無垢の着物姿を見せればぜったい喜ぶ。しかし、こればかりは首を振って、
「それもムリ!!」と叫ぶことしかできない。
彼はしょぼくれたワンコのようになってしまった。
「キミは変わってる。女の子はみんな挙式に憧れるんだと思ってた」
「私はない。ほら私たち、お金もないから。家族親戚に挨拶すれば、挙式はなしでいいでしょう?」
「それで済ませてもいいけど……、じっさいに今日、キミを僕の家族親戚に会わせてあるし」
物足りなそうな彼は、ソファーにもたれて考え込んでしまった。つかさず私は自分のお気に入りスポットへ頭をあずける。
彼の広い肩。空手で鍛えた賜物だ。私が泣くほど好きな背中へ繋がっている。
「僕はもう、キミと結婚したつもりでいるからね。誰に祝ってもらわなくてもいいんだ」
「私もそうだよ。大事なのは私たちの気持ちだから」
私の断固拒否の理由は、人前でこのイケメンの隣に立つのを想像できないせい。しかし、先ほど聞かされたセリフが大きい。
彼には悲しい過去があって、友達を失ったと聞いている。事情をわかった上で結婚するなら、こちらだけが友人を呼ぶなんてできない。だから挙式はしないほうがいい。
ふと、私たち夫婦にとっての初仕事は何になるのだろうと考える。お互い心身さえ無事でいられたら、それだけでじゅうぶん仕事……、だと思うけれど。
今後、私たちが日本で暮らしていくことは、もう話し合って決めている。
国際結婚だ。
彼は日本語の読み書きが出来ないので、手続き等するのは、すべて私になるはず。
夫婦で協力できることは少ないのかもしれない。それでも、些細なことを私が気に掛けていたなんて、彼には知られたくなかった。
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