実態

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実態

 夫は突然、背後にあるチェストの引き出しからリモコンを出し、スイッチを入れた。  カーテンが自動で閉まり、部屋の明かりが消えたと思った時、天井が開き、そこから、キラキラした球体がゆっくりと回りながら降りて来る。  ご存知、ミラーボール!  ステレオのスイッチがオンになり、演歌のイントロが部屋中に流れ出す。  もちろん、『圭子の夢は夜ひらく』。  部屋中にミラーボールの丸い光が回り出す。  リビングは場末のスナックと一変する。  いつのまにか、夫はマイクを握っていた。 夫「赤く咲くのは けしの花ぁ   白く咲くのは 百合の花ぁ   どう咲きゃいいのさぁ、この私   夢は夜 ひらくぅ♪」 妻「あ、あなたいつのまにかこんなものを」  夫とは、こういう生き物なのだ。  妻に内緒で、ちょっと高めな物を買う。 夫「お前たちが富士山登頂教なら、俺は藤圭子教だ!」  妻と孝文が顔を見て見合わせる。 妻「だとしたらあなた、私たち同じじゃないの。同じ教祖を崇めていたのよ」 夫「確かに。だがしかし、俺は富士山には登らない。藤圭子様は演歌のアイドルであり、富士山登頂教の教祖なんて、そんなものは、闇バイトだろ」 妻「闇バイトとは何よ!逆よ。富士山登頂教の教祖がメインで、歌が、闇バイト」 孝文「ちょっと待って。どっちも僕は違う思う」  妻と夫が、孝文に視線を向ける。 孝文「富士山登頂教の教祖も、歌手も、藤圭子さんは同じように愛していた。もちろん、ヒッキーのことも。その三つ巴の中で彼女は苦しんでいたんだよ。だから、だからさ、母さん」 母「なぉに、孝文」 孝文「腹へった」  息子とは、そういう生き物なのだ。  どんな時でも、   腹へった。  これが  これが・・・  富士山信仰の実態なのだぁぁぁぁぐぁぁ!          【了】
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