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地球の周囲を巡りまた港に戻る。それだけの道行き。
それでも相棒といればいつだって楽しい。
『さすがに有名な天才少年でも、厳重注意だけじゃ済まないぞ』
「試運転のために登録はしておいたよ。コースを間違えただけだ」
遊覧目的の旅行船が遠くに見える。参加者の犬一匹が見つからないまま、諦めて出発したのだろう。
『君は我儘に育ったな』
「んー? ふふ、そうかな」
窓の外は地上から見上げる空よりもずっと深く、暗い。そこに浮かぶ地球は、目も眩むほど青く美しい。
ライカはこれを見ることもなかったのだろう。見たい、と望みさえしなかっただろうけれど。
……無理に持たされた片道切符。
それを、僕は。
『ご機嫌、だな。……いや、違う?』
ノアの声音(実際には、伝わるのは声ではないけれど)に訝しい、という感情が混じる。
「次は何を叶えようかなって考えてたんだ」
『思考伝達アプリの開発と、個人規模の宇宙船の開発。もう充分すぎると思うけれど』
「まだあるよ」
と僕は笑った。
ご機嫌といえば、ご機嫌かもしれない。思いついたのだから。
初めてライカについて知った時、僕は泣いた。
もしも僕のノアが彼女のような目に遭ったら、僕はそれを行った人間たちを決して赦さないだろう。人類の進歩がどうとか、そんなことはこの悲しさと苦しさとは無関係の事情だ。ただ僕は彼らの友達として、彼らが犠牲になるのは耐えられないというだけなんだ。
過度なストレスも、寒い環境も、狭くて怖い船も、毒入りのエサも、全部全部、僕は赦せない。
「次は、タイムマシンを作ろうと思うんだ」
『はっ……!?』
ノアが驚愕の瞳を僕に向けた。
「あ、タイムマシンってわかる?」
『それは、わかるよ。君の相棒を何年務めていると思っているんだ』
「僕なら作れると思うんだけど、どうかな」
『……君が作りたいと思うなら、きっと作るんだろう。知識も分野も技術も違っていても、やりたいことがあるならすべてを学び吸収してみせる子どもだ、君は』
「僕思うんだけど、ノアもたいがい知能指数が高いよね」
ノアを抱き寄せ、膝に乗せる。
「……もしも君が独りで宇宙に放り出されたら、やっぱり不安でしょう?」
『そうだね』
安全も安心も保証されない宇宙旅行。犠牲になれ、と棺になる運命の箱に乗せられて。
「ライカにね」
ノアの体を撫で、静かに語る。
「ライカに与えられた切符は、片道切符だったんだ。決して戻れない切符を、欲しくもないのに持たされた」
同じ犬として心が痛むのだろう、ノアは目を閉じている。
「――僕はその切符を、破り捨てに行きたいんだ」
決意を込めて、僕は言った。
その言葉に、ノアが弾かれたように顔を上げた。
『それで……タイムマシンを?』
呆気にとられたように黙ったノアが、突然笑い出した。『アハハ!』と笑った後もまだおかしそうにくっくっ、と体を揺らす。
『いいねそれは。さすが君の見る夢だ。無謀で無茶で非現実的で大好きだよ』
「付き合ってくれる? ノア」
『どこまでも連れて行ってくれるんだろう?』
「そうだよ、相棒だもの」
「ねぇ、想像してみて。僕らがライカを迎えに行く瞬間を」
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