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廊下の突き当りにはまた小さなクリーム色の扉があった。中央の部分に四角い穴があり、千切れたケーブルと基盤がのぞいている。
「カード錠を壊した。苦労したぞ」
つぶやいた老人は勢いよく開け放った。
扉の中はロッカーや靴箱が雑然と散らばるやや広めの部屋で、さらに奥に続く灰色のドアがうっすらと見えた。
老人はすたすたと部屋を横切り、力任せに奥のドアを開ける。マツゴたちも後を追う。
ドアの向こうは、ただひたすらに暗い空間だ。
四人はきょろきょろと見回すが、明かりも窓からの光もない。
一方、老人は暗がりの中を慣れた手つきでさぐり、照明のスイッチを入れる。
黄色い電灯の列が点灯した。廊下や前室とは対照的に、天井も高くて左右も広々としている。
だが、何より四人の目を引いたのは、直径三十メートルほどの深い深い縦坑と、円周に沿って延々と連なる金属製の階段だった。階段を降りた先には、漆黒の丸い闇が広がっている。
真下をのぞいたマツゴは、腰のあたりに怖気を感じて思わず身震いした。くらくらと目まいがして、深淵に飲みこまれそうな気がする。
「まだ蓄電池の電気は十分あるようだな」
老人は、足の下が透けて見える金網状の足場の上に、ひょいと乗る。
「ああ、名前を言うのを忘れておった……」
ふいに振り返ると、四人へと笑いかけた。
「儂はタカマツウサミだ、よろしく」
眼下の深い暗闇の奥を、まじまじとマツゴはにらみすえた。
――アカルサハ滅ビノ姿デアロウカ。
人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ――
さっきサトウサンが暗誦していた一節が頭に浮かぶ。
行く手の闇の先に、命をつなぐ途がまだ残っているんだろうか。
「すぐに熱がこもって温度が上がる。早く下へ」
ウサミが階段から大声で呼び、とたんに苦しそうに咳をした。両方が混じり合って、側壁にわんわんと響く。
マツゴはケンスケ、イワオ、サトウサンと順番に目を交わした。
「行くぞ」
ケンスケがマツゴを促す。
マツゴは大きく息を吸い、一歩を踏み出した。
(了)
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