万津吾(マツゴ)は渋る。

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万津吾(マツゴ)は渋る。

 マツゴは、街灯もない暗闇から次々に現れては車窓の後方へ消える丸いキャベツの列を、銀色のセダンの助手席に座ったまま、ぼんやりと眺めていた。  萎れ始めた外側の葉の匂いが、車の中にまで漂う。  バックミラー越しに、苛立った表情のセンパイ、ケンスケの顔がちらりと見えた。  ケンスケはリアシートで窮屈そうに細長い足を組み、延々と貧乏ゆすりをやめない。履いている安全靴の先が、背もたれにゴツゴツとぶつかってくる。  マツゴは今までケンスケにつき従って、特殊詐欺の片棒、カバンや時計の強盗、トレカの窃盗もやらかしてきた。いつか断ろうと思いながら、ずるずる続いている。  今夜は土建会社の元社長宅への押し込みだ。  黒いブルゾンとカーゴパンツ、爪先に金属が入ったスパイク付きの作業靴で三人ともそろえている。  運転席でハンドルを握るのは、マツゴもケンスケも初対面の「サトウサン」だ。  ケンスケのボスの通称「クラウン」があてがってきたドライバーだ。  スキンヘッドで、やや縦に長い頭がラグビーボールに見える。長身で肩幅も広く、ステアリングを切るたびに精悍な筋肉の複雑な陰影がぐいっと浮かぶ。  快適で危なげない運転だ。タクシーかハイヤーのドライバーだろうかとマツゴは思う。  カーラジオから流れていた音楽が途中で終わった。  サトウサンがラジオに目をやり、ボリュームを上げる。 「天気予報です」  滑舌の悪い沈んだ男の声が聞こえてきた。 「観測史上初となる五十二日間、列島上空に停滞していた厚い雲は、明朝には太平洋に抜けて全国的に快晴となりが照りつけることになるでしょう」  と、同じスタジオにいる番組アシスタントの女のすすり泣きが漏れてきた。 「……いよいよ明日は晴れてしまうのか」  サトウサンは、丸刈りの頭をなでてぼそっと言う。  ラジオの泣き声が聞こえなくなった。スタッフが部屋から連れ出したらしい。  マツゴはため息をついて、窓の外を見上げた。
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