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「いくらかかってもかまわないから、自分の好みの指輪や首飾りを選んで買って来い。バースデープレゼント代わりのつもりであいつの誕生日には毎年そう言っていた。あいつも買ってきたものを見せて、いいものが買えたと嬉しそうにしていた。安もののわけがない!」
マツゴは老人の怒りに戸惑う。
「仕方ない、実際安ぴかなんだから。いっとき質屋にも勤めていたから少しはわかる。細工は手が込んでいるけど素材がよくない。質の悪い金、めっき、人造宝石」
老人は力なく肩を落とした。
「誕生日ぐらいは贅沢を、と思っていたのに……」
勝手に話すふたりに、ケンスケは爆発した。
「模造品に肉しかない! いくら高級でも肉を売りさばくルートなんかあるか!」
誰にぶつけたらよいのかわからない。ケンスケは、ふたりへ交互にぶちまけ続ける。
「まったく計画通りにいかない。段取りも、あるはずの金も、主人というかあるじ……お前の態度もだ!」
怒号の隙をついて、老人が言葉を返す。
「名前は、フジデライワオだ」
「イワオ……。とにかく、あんたのせいで全部調子が狂った」
いきなり天井を仰ぐ。
「もしもクラウンさんが知ったら……」
目をむいてマツゴに迫る。
と、急に情けなさそうな顔つきに変わった。
「俺に罰を下すならまだいい、母親に何かしてきたら……」
マツゴが、おそるおそる口をはさむ。
「……だって、クラウンさんとは昨日から連絡がつかないじゃないか」
ケンスケは思い出した。
一昨日まで日に何度も来ていたメッセージが、ぱったりと途絶えた。様子を訊くメッセージを何百回送ったか、わからない。
今日決行するのかしないのか、用意するものは間違いないか、ブツの引き渡しは……。
でも、いずれにも反応はなかった。
特製アプリだから、しばらくしたらメッセージは消えて、履歴も残らない。
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