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「センパイ、もうメッセは来ないんじゃないか?」
マツゴが言葉を重ねてきた。
「スマホのネットワークは磁気嵐でほとんどつながらないし……」
言いにくそうに目線をそらす。
「東南アジアあたりにいたら、とっくにお陀仏になっているかも」
ケンスケは、マツゴの顔をじっとにらみつけ、瞼をぱちぱちとさせて、室内を見渡した。
いきなり、部屋の壁が周囲から遠ざかり、ぼんやりとかすんでいく。
「センパイ、センパイ!」
遥か彼方からマツゴが呼びかけてくる。
心臓の鼓動が高鳴り、まるで地震のように全身が揺れて立っていられない。
思わずよろけて、ダイニングテーブルに手をついた。
「……俺は今まで何をしていたんだ」
頭に血が巡り、すべてが鮮明に映り始める。
朝になれば雲が晴れて、太陽から異常な宇宙線が降り注ぎ、何もかも焼き尽くしてしまう。
今夜ぐらいは母親のところに行けばよかった。飛行機を使っても、もう間に合わない。
とっくにわかっていたことなのに。
ケンスケは、あらためてマツゴをまじまじと見る。
「お前は、なぜ俺の誘いに乗ったんだ?」
マツゴはほっとした様子で、大きく深呼吸してから答えた。
「正直、センパイの言うことに逆らえなくて」
ケンスケは初めて思い至った。俺がクラウンさんに従うのとマツゴが俺について来るのは、同じこと……同じ心境によるものだ。
「何もせずアパートで最期を待つのも耐えられなかったし」
予定通りに計画を決行することで、少しばかりだが正気も保てる。
マツゴの言葉はケンスケの心にも沁みわたった。
黙っていたマツゴは、あらためてケンスケに真っすぐ向き合った。
「センパイ、もう茶番はやめよう。最後の晩だ」
全身から力が抜けていく。
ケンスケはソファに深々と腰を沈め、頭を抱えた。
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