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巌雄(イワオ)は悔やむ。
ふたりのやりとりを聞いていて、イワオは思った。
何だ、連中も同じか。
ひとりで死を迎えても、変りばえしない。退屈なだけであまり恐怖はない。
よりによって今夜、押し入ろうという奴らが何を考えているのか。不思議と興味が湧いた。
暴力をふるうだけなら怖くない。本気で殺しに来るのとは全然違う。会社の寮に住んでいた作業員にも、見境いなく暴れる輩は時々いた。
待っていれば、いつか隙ができる。
そろそろ、頃合いだ。
「おおい、強盗は終わりか」
ソファの上で声をあげる。
マツゴがイワオへ振り返った。
ケンスケの方は、ソファに座り込んで頭を抱えたままでいる。
「だったら、バンドをほどいてくれ」
マツゴはケンスケの様子をうかがい、小声でこそこそと言ってきた。
「……警察も警備会社も呼ぶなよ」
イワオは吹き出しそうになったが、いつ相手の感情が爆発するかわからないので、何とかこらえた。
「しないさ。警察だって動いているかわからないのに」
マツゴの警戒を解こうとする。
「確かに」
単純な……いや、素直な奴だ。イワオは胸をなでおろす。
イワオは、バンドの跡が残る手首を再びさすりながら、ダイニングテーブルの上にマツゴが置いた木箱を見やる。
「若い頃に世話した人が卸業者になって、毎年、中元で肉を贈ってくれた」
盆の時期になると、息子ふたりはすき焼きのおかげで必ず実家に戻ってきた。
でも、各々の家族を持ってからは、ふたりとももうほとんど実家には寄り付かない。
今思うと、母親へは頻繁に連絡していたみたいだから、つまりは父親……イワオのせいだ。
小さな土建会社の後を息子のどちらかが継ぐ継がないで口うるさく責めて、人生を縛りつけようとした。
最期の晩が来ても、長男も次男も連絡がない。もう会うこともない。
自分で育てた会社は結局合併吸収となった。退職金は潤沢にあったから、資産運用に回したが、結局大した使い道も思いつかない。
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