巌雄(イワオ)は悔やむ。

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「俺らにあんたの財産は回ってこない」  大きなげっぷをひとつはさみ、言葉を続ける。 「あんたが会社を大きくして金を貯めている間、俺らは、細々と先行き不安な暮らしを続けてきた。だのに、いつの間にか、もう明日自体がない。何を思えばいい?」  マツゴはだんだん興奮してきて、真っ赤な目でイワオをにらみ、酒臭い息を吐きながら絡んできた。 「今さら後悔するくらいなら、なんで少しぐらい俺らに分けてくれないんだあ!?」  イワオは、マツゴの目が酔いのせいで焦点が合わないのを見て、まともに取り合ってはいけないと気づく。 「軽率なことを言ってしまった」  昂るマツゴに、一言詫びを入れる。  だが、なだめるような口ぶりが、返ってマツゴの怒りに火をつけた。 「莫迦にしてるのか!」  よろけながらも、テーブルの向こうからばたばた回り込み、猛然とイワオに襲いかかる。  ところが、右腕がマツゴの頭上でぴたりと静止した。  サトウサンが、イワオに殴りかかろうとするマツゴの手首をがっしりとつかんでいた。
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