佐藤さん(サトウサン)は唸る。

2/5
前へ
/26ページ
次へ
「驚いた、何か格闘技をやってるのか」  イワオが大声をあげる。  サトウサンは我に返った。  見下ろすと、マツゴが首をうなだれてぐったりしている。  サトウサンは焦る。  やってしまった。  気づいたとたん、頭より身体が先に反応した。  サトウサンはマツゴの背筋に膝を当てて、肩を両手でつかんでぐいと引く。  ほどなく、げほんげほんと咳をしてマツゴが息を吹き返した。  感心した様子でイワオが立ち上がる。  もちろんサトウサン自身も、深く安堵した。  イワオは、マツゴを介抱してゆっくり起こす。  ふらつく身体をやっとのことで支えつつ、サトウサンにも言葉をかける。 「大丈夫か? 興奮していないか?」  サトウサンはイワオを見つめ、「ああ……」とあいまいに答える。  もう酔いから醒めたのか、マツゴはよろよろと歩き、しょんぼりソファに腰かけた。 「美味いなあ……」  もごもごと口にものを入れたままの声が聞こえてきた。  サトウサンが振り向くと、ケンスケがテーブルに座っていた。  ガスコンロの火を止め、鉄鍋から肉だけを手際よくさらって食べている。 「放っといたら、高級な肉が固くなっちまう」  すっかり落ち着いていた。というより呆けている。  さっきまでのイライラして焦っていた様子とは、まったく違う。  サトウサンは半ば呆れつつも、あいまいな笑みを返した。  ケンスケは残りの肉をさらうと、卵をたっぷりつけてほおばる。 「腕に覚えがあると知ってたら、サトウサンに来てもらえばよかった」  口いっぱいに肉を入れてつぶやくと、ケンスケはおもむろに言った。 「マツゴに水を」  サトウサンはキッチンに行き、手近なコップに水を注いで、マツゴに渡す。  マツゴはぐいぐいとあおり、お決まりのようにむせた。  ケンスケは、マツゴの隣りに座っていたイワオに向き直ると、深々と頭を下げる。 「ごちそうになった、邪魔をしたな」  今度はイワオが呆気にとられる側になる。 「それだけか、『邪魔』どころではないぞ」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加