卯佐実(ウサミ)は吼える。

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卯佐実(ウサミ)は吼える。

 もう少しで陽が昇る。  四人は観念して目を交わした。 「お互いに悔いばかりが残ったかもしれんな」  イワオが力なく声をかける。  マツゴは軽くうなずいた。  サトウサンは前を見つめて、考えにふけっている。  が、ケンスケだけは不満げに口をへの字に曲げた。 「今は話したくない。後悔しながら死ぬのは嫌だ」  すると……。  曙光が射そうとしている通りの先で、何かが動いた。  マツゴは見間違いではないかと思い、もう一度目を凝らした。 「人か……」  他の三人も驚く。  前方から来るのは、長い灰色の髭をたくわえたしわだらけの相当な高齢者だった。  だぼだぼのTシャツから枯れ枝のように老いさらばえた細い色黒の腕がのぞき、メッシュのベスト、カーキ色のポケットだらけのカーゴパンツと、底の部分が女物の厚底ブーツほどもある登山靴、というアンマッチないでたちだ。  背中には、はちきれそうになるまでぎゅうぎゅうに詰め込んだリュックサックを背負って、息を切らしながら駆けて来る。  すでに滅んだ地から現れた亡者じゃないだろうか、とマツゴは思う。 「おおい、待っていてくれたのか!」  マツゴたちに気がついた老人は、遠くの方から、なぜか馴れ馴れしく呼びかけてきた。 「ああ、待ってたぞ」  突如、ケンスケが大声で返事をする。マツゴは慌てふためいて手を広げ、ケンスケを止めようとするが、会話は続いた。 「食料、雑貨、薬品、ドラッグストアに大量に残っているぞお」 「そりゃあ……ええと、よかったなあ」  ケンスケは戸惑ったが、調子を合わせる。  老人は、よろけながらもみるみるうちに四人のところに走って近づいて来た。  ところが、いきなり声が冷たくなる。 「何だ、人違いじゃないか」  よたよた急ぎ足で老人は通り過ぎようとする。と、ふいに思いついたように尋ねてきた。 「お前らも、一緒に行かんか?」  遠ざかる分、徐々に声量を上げて呼びかけてくる。 「向こうの方にある電波塔の地下の縦坑だ」
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