卯佐実(ウサミ)は吼える。

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 五人は電波塔を目指して必死に駆ける。  と、一番前にいた老人がつんのめった。  サトウサンが転倒しそうになる老人の身体を支え、背中のリュックサックをひょいとはずす。  とっさに老人は手を伸ばして取り戻そうとする。 「莫迦、盗るものか」  サトウサンは𠮟りつけると、リュックを左肩にかけて、老人の細い胴を両腕でがっしりと抱え込む。 「行くぞ、入り口は?」  老人は軽々と抱き上げられて、半ば驚き、半ば浮かれた様子で、ビルの向こうを指す。 「裏の駐車場から回って行け、日陰になる」  老人に導かれ、四人はビルの向こう側へと急ぐ。  マツゴは、怖いもの見たさでつい後ろを振り返った。  真っ白な眩しい光がじりじりと近づいてくる。  車道脇の街路樹と植込みが水分の蒸発で萎んでいく。  マツゴは震えあがった。  すぐさま前に向き直ると、精一杯歩道のタイルを蹴って、とにかく少しでも早く前に進もうと駆け続ける。  駐車場に着くと、四人は急いでビルの陰に滑り込んだ。  突き出た長い庇の奥には、閉ざされたガラスの自動扉が見える。  その左に、鈍い光を放つ銀灰色の金属扉の通用口があった。 「……危ないところだった」  ケンスケが思わず漏らす。  サトウサンの脇から降りた老人が、なぜかぜいぜいと息をつきながら、扉のすぐ脇にあるプラスチックの小さなカバーを開く。中の黒いパネルを押すと、電卓のような並びの数字が点灯した。 「じゃあ入るぞ」  老人が素早く指を走らせると、かちゃりと音がした。 「番号は変更されるが、規則があって、勤めていたものにはわかる」  サトウサンが、重たそうな金属扉をぐいっと開く。  中の暗がりに、老人以外の四人は一瞬ひるんだ。  幅狭で暗い廊下が、建物の中心へ伸びている。天井だけは奇妙に高く、細長い金属製の枠組みが張り渡されていた。その上には、何十本ものケーブルが乗せられ、奥まで延々と続く。 「向こうだ」  老人が指さした。  四人はいぶかりつつもつき従う。
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