万津吾(マツゴ)は渋る。

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 木製の重そうな扉を通り過ぎて、ふたりは広い庭に侵入した。  屋敷の様子をうかがいつつ、そろそろ石畳を進む。左右にはひねくれ曲がった松の木が何本も伸び、人の背丈ほどもある巨大な庭石がごろごろと並ぶ。  窓を見たが、照明は灯っていない。 「中にあるじはいるんだろうな」  とケンスケがマツゴに訊く。 「さっき下見に行ったときには、裏の焼却炉から白い煙が昇ってたよ」  マツゴは答えた。  すると突然、ライトアップ用か、防犯用か、眩しいライトがあちこちで輝く。 「何だ?」  ケンスケの口から驚きの声が漏れた。  マツゴはさっそく踵を返して逃げ出そうとする。  ところが、ケンスケがすばやく右腕をつかむ。  ふたりでもみ合っていると、屋敷の玄関にぽっと灯りが点った。  マツゴとケンスケは思わずすっくと立つ。  ドアが荒々しくばたんと開いて住人が姿を見せた。  白い帽子に灰色の作業服の年配者だ。  小柄で背も丸まり、左の足をかばって引きずりながら歩いている。いわゆる枯れた老人だ。  と、ケンスケがいきなり目出し帽を眉の下あたりまでめくった。  呆気にとられるマツゴの方を振り返りもせずに、ケンスケは老人に向かって呼びかける。 「宅配便でえす、お荷物のお届けです」  マツゴは心の中で思わず突っ込む。インターホン越しで話しかけるときの挨拶じゃないか。隣りに目出し帽のままの自分がいるのに通じるわけがない。 「何を莫迦なこと言ってる!」  案の定、老人の朗々たる大音声の怒鳴り声が庭じゅうに響いた。ケンスケは凍りつく。マツゴも観念して両手を高く上げる。  ややあってから、老人の表情が少しゆるんだ。 「いつまで突っ立ってる? とりあえず入れ」  老人がぎごちなく手招きした。  雰囲気に飲まれて、マツゴはふらふらと一歩を踏み出す。と……。  目出し帽を被り直したケンスケが、だっと駆けて行き、老人にタックルして玄関に跳び込んだ。 「急げ!」  ケンスケの叫びに、慌てて追いかける。
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