健輔(ケンスケ)は覚める。

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 ボタンの記号の組み合わせで開く古い仕掛けだ。すぐには開錠できそうにない。ケンスケは一気に力が抜けて、がっくり肩を落とした。  とんでもない骨董品だ。  むらむらと怒りが湧き、階段を一気に登り、リビングに駆け込む。 「開けるのが面倒な金庫なら、先に言え!」  老人が横たわるソファの背を勢いよく蹴る。向かい側の椅子で見張っていたマツゴが慌てて立った。 「センパイ、いきなり何?」  尋ねるマツゴには答えず、結束バンドで縛った老人の腕をむりやりつかんで、再び廊下へと引きずり出した。 「やめろ、目まいがする、自分で歩く」  廊下で引き回されながら、老人はきっぱりと言い放つ。強い語気のせいで、ケンスケは思わず手を緩めた。  老人は両手をついたまま、右足を引きずって壁にたどり着く。  最近据え付けたのか、まだ真新しい木の手すりを握ると、老人はゆっくり立った。 「こら、きりきり歩け、爺さん」  忌々しくてたまらず、ケンスケは暴言を吐く。  マツゴはリビングから顔をのぞかせて、ケンスケの後ろ姿をじっと見守っていたが、やがてそろそろと後をついてきた。  ようやく地下室にたどり着いた老人は、にじり寄るように金庫に近づき、ケンスケをにらんだ。  ケンスケは老人をにらみ返し、足早に金庫へと歩いて行くと、軍手で上面を叩く。 「さあ、開けろ」  ちょうど折よくマツゴが階段を降りて来た。  騒々しく埃を巻き上げながら、老人の腕をがっとつかむ。 「バンドをはずさなきゃ、センパイ」  リビングにあったのか、大きな布裁ちバサミを使って、老人の腕の結束バンドをばちんと切り離した。  老人は赤くなった両手首を交互にさすり、痛みを和らげようとする。  ケンスケは苛立って、声を荒げた。 「早くしろ!」  老人は仕方なさそうに扉の前にしゃがむ。  たちまち、指をすばやく走らせて、英字と数字のボタンを次々に押し始めた。  マツゴは目を丸くしている。 「聞いたことはあるけれど、実物は初めてだ」
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