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「ハイ、アマンダ」  声のするほうに目を向けると、ゆるめのジーンズにTシャツ姿の中年男性が歩いてきた。親し気に手を挙げている。 「ジェイムス! やっぱりアンタの仕業だね! これで何回目だと思ってんのさ!」  アマンダさんがジェイムスに詰め寄り、彼の胸に人差し指を突き付けながら怒鳴る。 「アンタのせいで、大事な犬を一匹駄目にしたんだ! こりゃあ弾んでもらわないと困るねぇ」 「はいはい、わかりました」  尻ポケットから二つ折りの革財布を取り出すジェイムス。札を抜き取り、アマンダさんに差し出す。  しかしアマンダさんはちらりと目をやっただけでそれを受け取らず、ジェイムスに向かって二本指を立てる。ジェイムスが肩を落として、財布からもう二枚札を抜き取って差し出すと、アマンダさんがそれをもぎ取った。  ジェイムスが「敵わないなぁ」とぼやいて口をへの字に曲げる。 「よし。じゃあ行くか」  ジェイムスが、腕に掛けていた首輪を僕の首に掛けた。 「え?」  突然のことで、僕にはなんのことだかさっぱりわからない。  うろたえている間に更にリードを繋がれ、行くぞと引っ張られる。苦しいので、引っ張られるほうへついて行くしかない。 「ジェイムス! 今回のは珍しい犬だったけど、何の種だい?」  アマンダさんの問いに、ジェイムスがこたえた。 「面白いだろう。『会社の犬』って種だ。ヘイセイ初期のニホン男性がモデルだって、袋に書いてあったよ」 「好き者だねぇ。売れるのかい?」 「そりゃあもう。従順で、文句も言わずに黙々と働くからね! アマンダだったら安くしとくが、どうだい?」  フン、と鼻をならしたアマンダさんが後ろ手で手を振り、自分の小屋へと戻っていく。それを見送ったジェイムスが、僕を咎める。 「まったく。収穫途中で勝手にうろつかれたら困るんだよ。もう小屋から出てはいけないよ。いいね?」  ああ、この人が、上司だったんだ。僕は 「わかりました」  と頷き、ジェイムスに添って歩き出した。 <了>
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