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そもそも自分の能力については不確かなことが多かった。誰にも確かめることができないから、自分で予想して行くしかない。
しっぽが生えてからの余命が10年ほどなのも、完全に俺の感覚的な予測だった。またそのしっぽは必ず余命が近い人全員に見えるわけではないようだ。見える条件が何かあるのかは全くわからない。
祖父のことは別にして、今までどこか人事みたいにそのしっぽを眺めていた俺は、ここにきてあまりにも曖昧なその要素に不安を覚えていた。
「うーん」
ソファで毛布をかけて横になっていたら、寝室からレオンの唸り声が聞こえた。俺は体を起こし、引き戸で隔てられたその部屋に入る。
レオンは俺のベッドで布団にくるまり、目元だけがぎりぎり隙間から覗いていて、苦しそうに眉間に皺を寄せていた。
「レオン? 大丈夫か?」
ベッドの淵に腰を下ろし、手の甲をレオンの額に当てる。先ほどよりも熱くなっているようだ。市販の解熱剤をさっき飲ませたばかりだが、効くまでにはもう少し時間がかかるのだろうか。
「慎さん、寒い」
そう言って、額に当てた俺の手をすがるようにレオンが掴み頬を擦り付けた。
「熱もっと上がるかもな」
俺は少しだけ布団を捲り、体を中に滑り込ませた。
しがみつくようにレオンが俺の背中に手を回す。俺はその熱い体を胸元に抱き寄せて頭を撫でた。首筋に触れるとじっとり汗をかいている。
レオンはかなり苦しそうだが、冷静に考えればこの症状には身に覚えがある。レオン本人が先ほど自分で言ったように、ちょっと程度の重い風邪なのだろう。
「レオン、水飲む?」
「だいじょぶ、慎さんここにいて」
「いーよ、いるよ」
「うつしたらゴメン」
「そしたら、今度はレオンが看病してね」
汗ばんだ額に口付けた。
そこからレオンはしばらく苦しそうな呼吸を繰り返していたが、そのうち薬が効いたのか、穏やかな呼吸で眠りについたようだ。その一定のリズムを聞いていたら、しっぽのことで不安を抱えてストレスを感じていた俺も、少しずつ意識が薄らいで行った。
明け方になって、ブラインドの隙間からゆっくりと白んだ外の光が入り込む頃だった。
熱を抱えたレオンの体は布団の中を過度に温めていたようで、俺は無意識に片足だけ外に放り出していた。まだ半分眠りの中の意識で目を瞑ったまま寝返りを打って、レオンの体を探した。だけど、伸ばした手にはなかなかその体が当たらずに、俺はさらにシーツを撫でるように手を滑らせた。
ーーあれ?
覚えのない感覚が手に当たる。人間の皮膚や衣服、はたまた今かけている布団や毛布の感触ではない。
なんだかやたらと、「もふっ」としている。
「レオン?」
声をかけながら目を開いた。
そこに寝ているはずのレオンの姿はなく、人型の布団の膨らみさえもない。ただ、俺が手でたどったその「もふっ」としたあたりに、小さな膨らみがある。
ーーなんだ?
こんな感覚のクッションかブランケットが丸まっているのかと思いながら、俺は布団を捲った。
「えっ⁈ はっ⁈」
朝イチから出したにしては、きちんとハリのある声だ。このところレオンと一緒にいることが多くて喫煙を控えていたからだろうか。そんなことはさておいて、目の前にある光景に俺は驚きまだ夢の中にいるのかと一瞬自分の意識を疑った。
「猫⁈」
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