僕は犬。

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 僕は犬。なまえは五郎。ご主人様が四郎だからそう名付けられた。七人兄弟でくんくん鳴いていた。そのなかで、いちばん、さいご、に、四郎さんが、僕をもらった。四郎さんは、弟ができて喜んだ。四郎さんは、アメリカの輸入住宅の社長をなさっていた。アメリカから、モダンな家を輸入するのだ。  モダンな家。若い人たちは、そういう家に住みたがった。それか、都会の団地族が引っ越してきて、アメリカの映画でみたようなモダンな街をつくった。それはテレビのアニメでみた、スヌーピーがすむような街で、僕も、スヌーピーみたいに、芝生の上に白いちいさなおうちを立ててもらって暮らしていた。四郎さんは、クラシックが好きで、大きな音で聴くときは、僕は、四郎さんの膝の上で眠っていた。僕は、ショパンのノクターンが好きだ。四郎さんと一緒に、散歩へいって、川の流れをみている気持ちになる。  ところが、ある日、四郎さんは、自殺してしまった。悪徳業者に騙されて大借金を背負ったからだ。四郎さんの借金があまりに大きすぎたため、誰も、死体を引き取りにこなかった。しゃーないな、葬式ぐらい、だしたろか。高利貸がそういって四郎さんの葬式をして、家も、車も、アコーディオンも、僕も、すべて借金のかたでまきあげられてしまった。それで、次の御主人さまは、二郎という男だった。二郎は、僕を、家の中で飼って可愛がってくれた。二郎は、いつも、遠くをみながら、バーボンを片手に、本を読んでいた。もう、借金でどうしようもないひとたちの面倒をみるふりをして、弟としてはいりこみ、身ぐるみはがし、保険金までかけて、儲けていた。それでも、二郎は、それを淡々と、商売のようにして、はよ、死なんかい、と怒鳴ったり、透かしたり、して、ときには、自殺にみせかけて、殺害、したり、していた。二郎は、おさえるところはおさえていて、風俗も経営していた。だから、うまく、私財を増やしていた。二郎が私財を増やしてしたかったことは、孤児院を、立て直してもっと孤児たちにでっかい夢をみさせることだった。だけど、あるとき、あっけなく掴まった。三人の殺害は立件されたそうだ。僕は、今度は、警官に飼われることになった。その警官は、僕をみると、ちびっころ、と読んであごの下をふるわせながら笑った。ちびっころ。僕の名前は五郎だったけど、いまはちびっころという名前になった。なぜなら警官はシェパード犬をみなれているから、僕は、ちびっころ、という名前になった。僕は、眠い。警官の足元で眠る。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加