一組目

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「何が悲しいの?」  伏せていた顔を上げると、自身の背より遥かに高い位置に生える木の枝に、ちょこんと腰掛ける少女と目があった。 「ボク、その、みんなより耳が長いから、それで、みんなおかしいって」 「耳?」  少女は次の瞬間、躊躇することなく飛び降りた。 「危っ……」と叫びかけるも、少女はフワリとエルヒューマンの下に舞い降りた。 「んー、別におかしいとこなんて無いけどね。むしろツンとしてて立派じゃない」 「き、キミ、それって…………翼?」  少女は「そっ」と笑って答えた。 「私ね、人間とハーピーのハーフ、“ヒューピー”なの」  ハーピー。人の容姿に翼と鳥の下半身を持つ半人半鳥の魔物である。  一瞬、ヒューピーの少女と自分を重ねるも、太陽のような笑顔に照らされ自分とは別の存在なのだと悟った。 「……キミには何の悩みも苦労もないみたいだね。それどころか、随分と恵まれているみたいだ」  ヒューピーは僅かに首を傾げるも、すぐにその発言の意図を理解した。 「あーはいはい。やっぱりアナタもそう思うのね。残念ながらこの翼はね、お飾りなの」 「えっ」 「翼はあっても身体は人間なんですもの。構造的に飛ぶのは無理よ」 「で、でも今、木から降りて」 「そうそう。唯一の利点は落下の速度を和らげることくらいね。だからみんな期待ハズレだってがっかりするのよね。それどころか飛べない癖に目立ってんじゃないだの私がいると羽が散らかるだの日頃文句ばかり言われてるのよね」  それでも笑顔を崩さないヒューピーに、エルヒューマンはすっかり心を奪われていた。 「私ね、これからは多様性の時代だと思うのね。この世界にはね、いろんな種族が暮らしてるのよね。もう自分と違うってだけで受け入れないなんて時代遅れなんだからね」 「……そっか。そうだね」  ようやく少し笑みが戻ったエルヒューマンの眼前に、手が差し伸べられる。 「アナタは私のこと、受け入れてくれる?」 「…………うん」  こうしてエルヒューマンとヒューピーは互いに認め合い、いつしか夫婦となった。
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