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「ふむ。どうやらキミのご両親も特殊な方々のようだね」
するとどこからともなく爽やかな声で話し掛けられた。
見ると男が茂みの奥の木にもたれかかり立っていた。顔は栗色の髪で隠れ窺えない。
「…………」
「誰?と言いたげだね。僕は人間とケンタウロスのハーフ、“ケンタマン”さ」
ケンタウロス。それは上半身が人間で下半身が馬の半人半獣の魔物である。
「お察しの通り僕も父から馬の血を受け継いでいる。だからご覧の通り」
茂みから現れたその姿に、エルピューマンはカパンとくちばしを開けた。
「ウマヅラなんだ」
その顔は目と鼻の間が異様に離れ、鼻穴も異様にでかかった。
「クっ……クキャハハハハ! あひほのはほ(なにその顔)! おっはひーっ(おっかしーっ)!」
思わず声を出して笑ってしまい、慌ててくちばしを閉じるエルピューマン。構わずケンタマンは歩み寄り、改めてまじまじと見始めた。
(ちょ、その顔であんま近づかないで。笑える……)
くちばしを押さえ必死に笑いを堪えるエルピューマン。
「うーむ。その馬のように長い耳。実にキュートで親近感が持てる」
(馬じゃなくてエルフって言ってよ。やっぱりこの人も私を馬鹿にしに来たのね……)
「なによりもそのくちばし。鋭くもしなやかなフォルム。宝石のような鮮やかな光沢。美しい。実に美しい」
「……くぁ?」
「その美しいものの持ち主であるキミは実に魅力的で美しい人だ」
エルピューマンは再びくちばしを開き呆然とした。
「そんな美しい人には涙ではなく笑顔が似合う。さあ、遠慮せずにもっと僕のロングフェイスで笑ってくれ」
つぶらな瞳でパチッとウインクされ、エルピューマンの理性は瓦解した。
「ク……クキャハハハハハハハハハ!」
周囲にお構いなしに甲高い笑い声を響かせつつ、エルピューマンは思った。
(この人といたら、どんな悩みも吹っ飛ぶくらい馬鹿らしく思えてきそう)
馬が合った二人は自然の流れで夫婦となった。
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