スキでダメで、やっぱりスキで。

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 ***  朝っぱらから醜態を晒してしまった俺だが。  他のクラスメートもきっと、登校してくれば瑛のおかしさを突っ込んでくれるだろう、そう思っていた。  ところがどっこい、登校してきたクラスメート達はまったく気にする様子がなく。むしろ。 「あれ?瑛ちゃん今日可愛い。そのワンピどうしたの?」 「ふふふふ、実は、伯母さんが作ってくれたんだ!なるか伯母さんって、こういうの得意なんだぜー!ほらみてみて、こんなとこにもリボンついてんの」 「いいなあ!あたしもほしー」 「ねえねえ瑛ちゃん、他の人にも作ってって頼めないかなあ?」 「どうだろ?伯母さん仕事してて忙しいからなあ。でも、みんなも欲しがってるって聞いたら作ってみてもいいかも。交渉してみよっか?」 「やったあ!嬉しい!」 「ありがとー瑛ちゃん!」 「おい、瑛。そんなふりふりな服で来たら遊ぶ時めんどくさくねえ?ドッジボールできんの?」 「ご安心あれ、このワンピは意外と丈夫な素材だし見た目より動きやすいんだから!それと、スカートの下にはちゃんとスパッツ履いてるからパンチラのサービスはないぜー。残念でした!」 「ばっ……誰がお前のパンチラなんか見たいと思うんだよ!」 「あ、想像した?柏木想像した?えっちえっちー!」 「てめええええ!」  どういうこっちゃねん。俺は心の中でツッコミしまくりである。男子も女子も、何も不思議がる様子がない。男の子だったはずの子が、夏休み明けに女の子になってしまったのだ。おかしいと思うのが普通だろうに――まるで、昔から女の子だったかのように扱われているのである。  元々男女問わず友達が多い瑛なので、夏休み明け早々みんなに囲まれているのはなんらおかしなことではない。ただ、その会話の内容が自然に、“女の子扱い”に切り替わっているのが違和感だらけなのだ。 ――実は、瑛は元々女だった?で、俺が気付いてなかった?……いやいやいや、そんなはずないよな。  俺はしきりに首を傾げる。確かに、夏休みの間瑛とは会わなかった。瑛の家も自分の家も海外旅行に行ってしまったこともあり、双方でスケジュールが合わなかったのである。  しかし、去年の夏までは家族ぐるみで一緒に遊びに行くなんてこともした。海に行った時、瑛は間違いなく海水パンツ姿だったはずだ。つまり、瑛の胸をばっちり見ているが、その胸が膨らんでいたなんてことはない。ついでに、お風呂やトイレも一緒に行ったことがあるが、そこでも別段おかしなことは何もなかった。  それが、いきなり女の子になってしまうなんて。夏休みの間に、何が起きたというのだろう。彼が女になっただけじゃなく、周りもずっとそれが普通だったように扱っている。ならば、世界そのものがおかしくなったのか?もしくは、自分の記憶の方がおかしかったのだろうか? ――わ、わかんねえ。ただ……。  ついつい、瑛の方を見てしまう。  元々髪型はボブカットだったので、それは変わっていない。しかし、女の子らしさ抜群のピンクのカチューシャは今日初めてつけたもの。キラキラとラメが散っていて、端に星型の飾りがついている。それだけで、抜群の髪型もオンナノコっぽく見えてしまうのはどうしてだろうか。  そしてほっそりとした首元を華やかにするリボン型のチョーカーに、同じ薄ピンクのワンピース。別に露出が高い姿をしているわけでもないのに、どうして見るたびにドキドキしてしまうのか。首とか、スカートが翻った時にちらっと見える太ももとか。むしろ瑛がいつもの半袖短パン姿だった時の方がずっと露出していて見ていたはずの場所なのに、一体どうして。 ――だ、だめだめだめだめ!あいつは男!男男男男!恋愛対象になんかならねーの、なったらおかしーの!勘違いするな、俺!い、いやでも、今は女の子ならいいのか?い、いやいやいやいや、でも本来あいつは男のはずでっ!  俺は自問自答し、一人大混乱継続中。だから、すぐには気づかなかったのだ。 「?」 「…………」  瑛が時々、何か言いたげに俺の方を見ている、なんてことは。
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