スキでダメで、やっぱりスキで。

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 ***  この状態はマズすぎる。  どうにかして解決しなければ、と思っていた矢先。昼休みになって早々、瑛の方から声がかかったのだった。 「ねえ、たっくん。ちょっといい?……話があるんだけど」 「お、おう」  彼――いや彼女?に手を引かれるまま、俺は屋上へ連行された。  この学校の屋上は、本当は生徒が無断で入ってはいけない場所である。ところが前に悪戯した時うっかり鍵を壊してしまい、以降自由に入れるようになってしまったのだ。しかも、俺達二人が悪戯したことに未だにバレていない。  ゆえに。現在屋上は、俺と瑛しか入れることを知らない秘密の場所となっている。つまり、此処にはどうあがいても、俺達以外誰も来ることはない。 「あのさあ、たっくん。今日めっちゃおかしくない?瑛、なんかした?」  ものをはっきり言う性格の瑛は、朝からそこに怒っていたらしい。あからさまに瑛のこと避けてるだろ、と。  俺はぐうの音も出ない。まさにその通りだったがゆえに。 「なんで?どうして?久しぶりに会えて、こっちは嬉しかったってのにさ。おかしなことがあるなら言ってよ、ねえ」 「そ、そそそ、それは、その、えっと」 「……やっぱり」  俺の反応から何かを察したのだろう。瑛は苦い顔で、自分の体を見下ろして言ったのだった。 「……このワンピース着て来たから?……いつもと違う、女の子っぽい服着てたから。そんなに、変だった?似合わない?」 「そ、そんなことはない!むしろ、めっちゃ似合ってるし、可愛いと思う!」  思わず反射的にそう返してしまった。可愛いと思う、というのは本音だ。むしろ、似合いすぎてて目のやりどころに困るほどである。今日一日、瑛を意識しすぎてしまって困るほどだ。だって、理想が服着て歩いているとしか思えなかったのだから。  元々瑛は、ものすごく可愛い顔をしている。可愛い、とふざけて言ったら怒ってゲンコツが飛んでくるのが常だったけれども。 「じゃあなんで?女の子っぽい服着てる瑛が嫌なんじゃないなら、可愛いならなんで避けるの?瑛は……たっくんに可愛いって言ってほしくて、伯母さんに頼んで服作ってもらったのに」  え、と俺は固まる。目の前で、瑛の顔が泣きそうに歪んでいる。 「女心ってやつ、わかってよ。そりゃ、瑛はあんま女の子らしい女の子じゃなかったから戸惑うかもしれないけど、でも。……大好きな人に可愛く魅せたいって思って何がいけないの」  それが何を意味するのか。さすがに分からないほど、幼くはないつもりだった。  瑛は、どうやら俺のことが好きらしい。そして、俺に可愛いと思われたくてワンピースを着てきたらしい。でも。 ――俺にとって、瑛は男なんだ。いきなり女だって、そう言われても困る。何が本当か、わからなくなってんのに。ああ、でも。  でも。今の瑛なら、と。心の中で声が聞こえる。  今の瑛なら、言えるだろうか。ずっと殺して、握りつぶして、踏みつぶしてきた言葉を、今ならば。 「今の瑛なら言えるんじゃないの」  しかし、俺が何かを言うより先に、瑛が。 「今の“女の子になった瑛なら”好きだって言っても、変だって思われない。そうだろ?」 「!!お、お前……っ」  自分が元々は男だったって自覚しているのか。俺が思わずそう叫ぼうとした時。瑛は俺の唇に指を一本当てて――泣きそうに笑ったのだった。
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