スキでダメで、やっぱりスキで。

4/4
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「言っちゃ駄目だよ、その言葉。……それは、瑛のことも……君自身も傷つけるから」 「そ、それは、どういう意味……」 「たっくんは、気づいてたよね?瑛がたっくんのことを好きかもしれないことも……たっくん自身も、瑛のこと好きかもしれないってことも。でも言わなかったし、言えなかった。心の中で涌いた感情を、全部湧きあがるたびに一つずつ丁寧にすりつぶして、踏みにじって、なかったことにしようとしてきた。それはオカシイことだからって言い聞かせて。男が男に恋愛なんかしたら気持ち悪いし、相手のためにもならないからって。周りになんて言われるか、家族になんて思われるかわからないからって」  でもさ、と瑛は続ける。 「人を好きになるのって、そんなにいけないことかな。愛は罪で、悪なのかな。……男同士だからって、それだけで駄目になっちゃうのかな。君は、本当にそれでいいの?」  俺は、言葉を失った。それはまさに、俺がずっと問いかけ続けていたことだったからだ。  そう、本当のところ。こんな世界に迷い込む前から、俺は瑛のことを意識していた。可愛い顔だなんて思ってたのも、全部瑛のことをいつも誰より見ていたからこそ。おかしなことだ、他の男になんか興味もないのに、瑛だけは幼い頃から違っていたのだから。  淡い想いは、大きくなればなるほど膨らんで、無視できなくなるほどになって心を圧迫していく。何度思ってしまったことだろう。瑛が女の子だったらよかったのに、そうしたら自分はもっと堂々と好きだと言うことができたはずなのに、と。  今、気づいた。  確かに女の子になった瑛は可愛い。ものすごく可愛い。でも可愛いと思うと同時に違和感もあって。俺が結局一番好きになったのは女の子だからじゃなくて、瑛だからだったということに。  いつもの瑛が、本当に好きだったということに。 「結婚、できないんだぞ。それでもいいのかよ」  俺が問いかけると、女の子の瑛は泣きそうな顔で笑った。 「結婚するとか、キスするとか。恋愛って、それだけじゃないんじゃないの?ねえ、二人で一緒にやりたいのって、どういうこと?」  気づいた時。  俺は自分の部屋のベッドで寝ていた。まだ目覚まし時計も鳴っていない早い時間。それでも窓の向こうは太陽が明るく世界を照らしているのがわかる。 「……」  ただの夢だ、なんて割り切ることはできなかった。俺はカーテンを開くと、窓の外を見つめて息を吐く。青い青い空が広がっている。遠くには山が見えて、いつもの俺達の町が見える。学校も、よく遊んだ公園や、駅も。  二人で一緒にやりたいのは。こんないつもの、変わらない素敵な世界で――当たり前のように笑い合うことだ。その時、一番近い場所にいることを許されること、それだけなのだ。友達よりも、家族よりも、できれば恋人よりも近い距離で。  紅葉の山にハイキングに行こうか。  冬は雪合戦をして先生に叱られようか。  春はお花見で盛り上がろうか。  そして夏はまた、一緒に海へ。 「……そうだよな、瑛」  思ったよりあっさり覚悟は決まった。俺がするべきことは、ただこの気持ちに素直になること。それを伝えることだけなのだ。  よし、と気合を入れて、俺は両頬を叩いた。カレンダーを見る。  一週間後の新学期。その時が、俺にとっての決戦だ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!