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来訪(中編)
(前編から続く)
彼女の言葉は文章としても表示されていたので、
私はすぐに記録を保存し、再確認を始めた。
歴史的事件に立ち会って興奮した頭の中を、
様々な疑問が駆け巡った。
第一は、私達と彼女達の歴史的なつながり、
特に神話との関わりだ。
まず、バラムという名を検索すると「双眸が赤く輝き、
過去と現在、未来について正しく答える悪魔」とある。
確かに彼女はそんな瞳と喋り方だったので、そうした
容姿や論理的話法の文化をもつ種族かと思った。
神話以外にも過去に幾度か、
人類と異星人との接触があったとすると、
昔の怪しげな魔導書にも、多少の真実が
含まれていたのかもしれない。
ただし元々、神魔の対立はいわば〝教育劇〟だったうえ、
現実には〝先帝〟側近種族の悪行によって、
善玉役と悪玉役の〝天使〟の立場が
逆転してしまった、ということなのだろう。
何だか人類の歴史でも時々見かけるような、
考えさせられる話だなあと思った。
とはいえ、神の原型は銀河系の皇帝種族で、
神話の語り手は魔王役の臣下種族、
堕落したのは〝天使〟とされた側近種族達の方だった!
……というのは確かにややこしい。
この地域で通信規制が行われる一方、
異星人側も質問調査以外の双方向対話を
避けていたのは、従来の一般的伝承とは異なる
微妙な公表内容のせいだったのかもしれない。
規制をかわして理解を得るための方策が、
事前調査と電撃訪問だったというわけだ。
しかし、どんな科学や事実も越えて、
心の救いを与えてくれるのが神話の効用だ。
異星人が神話を広めたからといって、
彼女達は伝令に過ぎないともいえるし、
善行奨励の教えに変わりはないのなら、
神話自体の否定にはならないと感じるが……。
第二は、いま私達の前に姿を現した彼女達の正体、
すなわち生物・社会学的な特徴だ。
恒星間航行ができるぐらいだから、
通信規制を潜るくらい造作もないだろうが、
異星種族が人類と全く同じ姿というのは考え難く、
画像は本当の姿ではない可能性が高そうだ。
〝代表人格〟や〝彼女〟といった表現からみて、
量子頭脳への人格転移を
達成していることも考えられる。
となれば当然、その映像や再転移用身体の属性も、
自分達や相手方の必要や好みに応じて
自由に最適化できるはずだ。
そうしたあり方は、自分達自身の生命活動さえも
変換・再現・改良できる高度な技術を持ち、
広大な宇宙の多様な環境に拡がり住んで、
複雑高度な経済・社会活動を営む星間文明に
とっては、必然の流れかもしれない……。
私は以前から常々、そう思っていた。
〝同盟種族〟という言葉を使っていたので、
バラム自身は軍事種族という可能性もある。
一体どんな戦いを行っていて、
今の戦況はどうなっているのだろう?
古代の地球を訪れて神や悪魔を演じることができ、
以後も発展を続けてきたような連中同士の戦争だ。
エドワード・E・スミスやエドモンド・ハミルトン、
グレッグ・ベアの名作SFを読んだ時の記憶が蘇った。
負の物質球、空間破壊砲、さらには
より〝効率的〟な遠隔素粒子操作兵器……、
惑星や恒星、星域さえも破壊できるような
超兵器を思い出して、ぞくりとした。
(後編に続く)
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