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俺、犬塚晃成は地味に参っていた。まだまだ寒い二月の一週目のことだ。
俺は黒のダウンジャケットに顔を埋めるようにして、都内某所をさ迷っていた。六、七階建ての雑居ビルが並ぶ日陰の通りは、昼食には早いからか人は疎らだった。ベリーショートの髪型が変なのか、おでこの左側に貼った大きめの絆創膏のせいか、女性が俺を二秒ほど見てすれ違う。
大学はもう少しで春休みだが、このままでは楽しい新学期を迎えられそうにない。俺には助けが必要だ。
物憂い気分でチラッとスマートフォンの地図を確認した時、左から一陣の冷たい風が吹いた。何となく視線を送ると、思いがけず赤色が目に飛び込んできた。すぐそこ、斜めに延びた脇道に鳥居がある。
考えたのは一瞬で、俺の足は自然とそちらに向かっていた。
敷地の幅は、四、五人乗りの車の全長と同程度。そこに、こざっぱりとした神社が慎ましく建っていた。祠に毛が生えたような本殿に、細長い簡素な建物、それと数本の若木。割と新しい神社なのだろうか。通りの角度に恵まれているのか、境内は半分ほど明るい日なたになっていた。
水色の袴姿の青年が竹箒で地面を掃いている。サッサッという音が小気味よい。
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