柴犬の様なその人は

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「いつもニコニコしている、あんなにイイ人を見たことがない」  商店街の人たちは、皆、口を揃えて所長のことをそう表す。  僕もその意見に、全面的に同意だ。  誰にでも優しく接し、困っている人は放っておけない。勿論仕事はできるし、僕のバカなミスも、「君は本当におもしろいねえ~」なんて笑いながらフォローしてくれて、声を荒げたところなど見たことがない。  でも、たまに程よく抜けていて、前に僕が「戸田さん、所長のこと大好きですよね」と、半分からかって言うと、キョトンとした顔をして、「え、そうなの?」と、言ってきた。その時ばかりは、無自覚にも程があると、少し心配になった。先程、戸田さんに渡したクッキーだって、所長の手作りなのだ。しかも、「趣味で作ってるだけだよ。逆に押しつけてないといいけど」なんて言っている。やはり、無自覚にも程がある。  前に、商店街の誰かが所長のことを、「柴犬の様な人」と、言っているのを聞いたことがある。  フワフワとした少し茶色の髪の毛とニコニコした表情。それと併せて、優しく、真っ直ぐで、賢いところも相まって、僕は妙に納得してしまったのだ。  天然の人たらし柴犬。所長を端的に表すとこんな所だろう。  出会った人、皆が好きになってしまう。かくいう僕も例外ではない。
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