柴犬の様なその人は

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 僕が異変に気付いたのは、偶然会った岡部さんに誘われて、閉店時間まで飲んだ後、事務所と逆側の商店街と大通りがぶつかる辺りまで来たときだ。 「最悪。家の鍵、デスクの上に置いてきた」  鍵を忘れたショックも大きかったが、所長が唯一口酸っぱく言う、忘れ物をするなという言いつけさえ守れなかった自分の無能さに、ほとほと嫌気が差す。  しかし、この時間では不動産屋も鍵屋も閉まっているし、近所で開いている店もない。 「仕方ない。取りに帰るか」  もと来た商店街の道をトボトボと引き返し、事務所に着く。事務所に入るということは、必然的に所長の自宅の一部に入ることになる。夜もかなり深いため、気が引けるが仕方がない。  せめてもと、裏口に周る。渡されている合鍵でそっとドアを開けたところで、僕の意識は飛んだ。
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