柴犬の様なその人は

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「おーい、おーい……」  誰かの声が、かすかに聞こえる。 「おーい……もう、強過ぎるんだよお前らは。いつも言ってるだろ? もう少しだけ手加減しろってさあ……」 「すみません、正太郎さん」  徐々に戻ってきた意識の中で、知らない太い声がしている。 「つーか、君もいつまで寝てんだよ! 」 「うっ! 」  聞き覚えのある声と、同時に襲ってきた頬の痛みにで、一瞬にして視界がハッキリとした。  目の前には、初めて見るような、良く知った顔。 「……所、所長? 」 「おー、起きた起きた。おはようございま~す。今日は出が早いんだねえ」 「……なんですか? これ? 」 「なんですか? って……君はやっぱり面白いねえ……何だと思う? 」  僕は何も答えられない。  そんな僕を見て、所長は、呆れたように小さく笑った。そして、ゆっくりしゃがみ込み視線を合わせると、「じゃあ俺が特別にヒントをあげよう。君は今、手首と足首を結束バンドでまとめられて、椅子に縛り付けられています。しかも周りには黒いスーツを着た厳つ~い三人の男達。あ、ちなみにココ、俺の部屋ね。さて、な~んだ? 」と、出来の悪い子どもに言い聞かせるように続けた。 「……捕まってるってことですか? 」 「おお! 大正解! さすが俺が拾っただけのことはあるね~」所長はニコニコしながら、僕の頭を、顔に似合わない大きな右手で、犬を撫でる様にかき回す。 「でも、ダメじゃないか。ホラ、コレ、忘れたんだろ? あれほど口酸っぱく言ったのになあ……」先程の表情とは一転し、心底悲しそうな表情で所長がそう言う。その左手の中では僕の家の鍵が揺れている。 「本当に、本当に、すみませんでした!」状況が理解できないものの、所長を悲しませてしまった罪悪感に襲われた僕は、必死に頭を下げる。 「テメエ、正太郎さん裏切っといて、すみませんでしたで済むと思ってんのか! 」 「どう落とし前つけんだよ!」 「正太郎さんのことなめてんのか!?」大男達からの罵声が頭の上に次々と降りかかる。 「うるせえよ! 口挟むな、黙ってろ! コレは俺のだ! 」思わず顔を上げてしまった。初めて聞いた所長の怒鳴り声だった。  男達は慣れているのか、小さく「すみません」とだけ呟き、所長の後ろへ下がった。僕の頭はまだ完全に固まっている。  所長は、面倒くさそうにハアと溜息を着くと、部屋の隅にある大きな黒い袋を顎で示し、「そのオモチャどっかに捨ててきて。俺、ソレ飽きちゃったし、新しいの来たし。捨てたらお前ら直帰でいいよ。はい、じゃあ、お疲れした~」と、早口で言った。 指示を受けた男達は、ソレと言われた大きな袋を担ぎ、部屋から出て行った。
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