柴犬の様なその人は

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「はあ、アイツら声デケえんだよ。こんなんじゃバレるのも時間の問題だ……」 「……何なんですか、あれ 」 「何、また質問? じゃあ、俺も。……何だと思う? 」いつものようなフワフワとした笑みで、所長はふざけたように問う。 「……わかりません」 「正解はねぇ、ショータローの飼い主です! 」  分からなかった。目の前の人のテンションも言っている意味も。 「……どういうことですか? 」 「えぇ~さすがに分かるだろ? あ、君、ショータローの飼い主って、俺の飼い主って意味じゃねえよ? 犬のショータローだよ? 変なこと考えんじゃねえぞ」  所長は名前を、柴崎 正太郎といった。 「……所長。戸田さん……殺したんですか? 」声が震えた。 「あー、戸田つったなああのババア。まだ死んでねえよ。しかも、殺すのは僕じゃありませ~ん」 「……何で、ですか? 」そう問うと、今まで細められていた目がパッと開いた。  その瞬間、僕は身動きがとれなくなった。  僕を見ているようで全く見ていない、光の入らない奥の奥を見ているような真っ黒な瞳。しかし、それとは対照的に、口元にはあの人懐っこい笑み。その顔をみて、ハッとした。この人は、大人しく日向ぼっこをしている柴犬なんかじゃなく、愛嬌という最大の武器を持った悪魔だ。    フワフワの髪の毛をくしゃくしゃに掻き回しながら、心底嫌そうに、悪魔は喋り始めた。 「あのババア、犬撫でながら俺になんつったと思う? 『この子、柴崎さんに似て超カワイイ! と思って一目惚れして買ったんですぅ! しかも、すごく賢くて、本当に柴崎さんが家にいるみたいなんですぅ! ね! ショータロー! チュ!! 』だと。あ、コイツ殺そう。と思ったねえ」 「……そ、それだけですか? 」思わずそう質問した僕を見て悪魔は、ハハッ! と実に楽しそうに笑った。 「そうだよ! クッソ気持ちわりいし、クッソつまんねえしさ。まあ、すぐに殺すなんて簡単だけど、それじゃあ面白くないだろ?だから、散歩のついでに毎日わざわざ、クスリ入れたクッキー焼いて……」 「クスリ!?ま、まさか、ショータローにも?」 「ショータローには何もしねえよ。アイツに罪はないし、見てて面白い。それにカワイイし賢いからな……俺みたいに。ハハッ! 」そう言い終えると、悪魔は急に真顔になって、「でも、あのババアは全く面白くねえ。だから最期ぐらい、俺に面白いと思われながら死なせてやろうと思ってさ……ほら、俺って優しいイイ人らしいから」 「……はじめからこうするつもりだったんですか?」  僕の質問に少しだけ口角をあげると、悪魔は「……それは、アイツのこと?それとも君のこと?」と、ゆっくりと穏やかな口調で答えた。    ああ、こうやって何人が彼に取り憑かれ、何人死んでいったのだろう。もしかしたら、この商店街はすでに、この悪魔のオモチャ箱なのかもしれない。 そして、僕も、その中のオモチャの一つ。
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