10人が本棚に入れています
本棚に追加
02.黒い三つの惑星
翌日の朝、出勤中に公園にさしかかると、彩夏は昨日の夜に子犬と出会ったあたりにさりげなく視線を向ける。通勤や通学の人々に混じって、ウォーキングする人や犬の散歩をしている人もいる。でも、その小さな公園にはあの子犬はいなかった。
きっと飼い主が現れたのね。彩夏は安心して会社に出かけた。ところがその夜、仕事帰りの彩夏がその小さな公園にさしかかると、ふたたびあの白い子犬の姿を見つけた。
白い子犬は昨日の夜と同じようにくうんくうんと小さな声を上げながら彩夏を見上げる。まんまるな黒い瞳で。その瞳はご飯ばかりではなく、彩夏が抱き上げることを求めているようにも見えた。
捨て犬か迷い犬なのかな。今朝はきっとどこかに行ってたのかもしれない。ご飯を探しに。白い子犬が空腹を抱え、食事を求めて街をさまよう姿が彩夏の頭に浮かぶ。飼い主に捨てられたのか、飼い主とはぐれたのか。
白い子犬は両目と鼻先が真っ黒で、まるで白い宇宙に浮かぶ黒い三つの惑星のように並んでいた。三つの惑星を宿した白い子犬は、きっと寂しいのだろう。飼い主を求めているのに、飼い主がいないせいで。
そんな思いが浮かぶと、このままこの子犬を見捨ててはおけないといった使命感みたいな気持ちが彩夏の胸に迫った。
けれど、彩夏の暮らす賃貸のワンルームマンションはペット禁止。一時的にでも白い子犬を連れて帰るのは無理だ。彩夏はスマホを取り出し、友人知人たちに連絡を取る。迷い犬を見つけたとき、どうすればいいのかと。
すると、友人の里穂が一軒の動物病院を教えてくれた。
「私の実家の犬がその病院でお世話になっててね。そこは保護犬活動もやってる動物病院だから、ひょっとしたら」
そう言って、里穂が動物病院に連絡を取ってくれた。
最初のコメントを投稿しよう!