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03.南国の島に吹く暖かな風
「特に病気もケガもなさそうなので、迷い犬かもしれないですね。今の子犬にはマイクロチップの装着が義務なんですが、このワンちゃんにはマイクロチップがない。つまりは誰かに譲ってもらったものか、それ以前に生まれた犬かもしれないです」
獣医師の新浜は丁寧に白い子犬の健康状態をチェックしたあと、そう彩夏に説明した。新浜は里穂が連絡を取ってくれた動物病院の獣医師だ。診療時間が終わったあとにもかかわらず、彩夏に対応してくれた。南国の島がよく似合うような、よく日焼けした五十代半ばくらいの獣医師。
「病気もケガもないならひと安心ね」
里穂の言葉に彩夏もほっと胸を撫で下ろす。里穂は自分の車を出して、あの小さな公園まで彩夏と白い子犬を迎えに来てくれた。そしてそのまま新浜動物病院まで運転してくれた。
「とりあえず今夜のところはうちでお預かりしましょう。費用? いいえ、大丈夫です。丸山さんの娘さんの紹介ですから。明日にでも保護犬活動をしている団体に連絡を取ってみますよ」
新浜という名前の獣医師は、彩夏にそう微笑んだ。南国の島に吹く暖かな風のような笑顔で。
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