01.すべてが氷のように

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01.すべてが氷のように

 その夜、彩夏が見つけたその子犬は、ふわふわの白い毛並みが印象的な犬だった。白い毛糸のような犬のまんまるな黒い瞳が彩夏を見つめていた。彩夏に何かを求めるようなその瞳。彩夏は思わず立ち止まり、その白くて小さな犬を撫でる。  誰かが散歩させている途中なのかな。  彩夏は周囲を見まわす。仕事帰りの時間帯だから、まだ犬の散歩をしている人がいてもおかしくはない。けど、この公園には誰もいないし、公園の前の通りにも飼い主らしき姿はどこにも見えない。  住宅街の中の小さな児童公園。背の高い照明からの白い光が、夜の公園の姿を闇の中に浮かび上げていた。寒々しい白い光を浴びた公園の地面も植え込みも遊具も、すべてが氷のように白く冷たそうな光を反射している。  白い子犬はくうんくうんと小さな声を上げながら彩夏を見上げる。 「お腹が空いてるのかな?」  彩夏はもう一度、あたりを見まわす。でも、やっぱり周囲には飼い主らしき人物の姿どころか、人通りさえ見えない。  子犬の毛並みは比較的きれいだし、目やにや涙みたいな病気の兆候はなさそうだった。体のどこかにケガをしているわけでもない。 「ごめんね。たぶん、飼い主がすぐに見つけてくれるから」  彩夏はそう子犬に告げ、公園を立ち去るしかなかった。
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