犬とさやえんどう

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
どっすんバリバリ! がしゃ、がっしゃーん!! 何かが壊れる物音がして割れた陶器、肉汁を垂らす鍋、そして男が出てきた。 「失せろ」のひと言でピシャリと扉が閉ざされ、彼の眼をチラシが閉ざした。 山岡はその日、自身のレストランの前に掲げられた大きな看板の下で立ち尽くしていた。看板には「山岡健太郎シェフによる特別試食会」と大書されていた。彼は自信満々で挑んだ試食会が、貴族たちからの厳しい評価と無理解に終わったことを思い返し、深く落胆している。 その「驚嘆のメニュー」を見てみよう。 例えば「海と山の幻想」。 海の幸と山の幸を組み合わせた料理、例えばイクラを添えた鹿肉のタルタルや山菜と海藻のサラダ。しかし、そのユニークな取り合わせは貴族たちに拒絶された。 「未来のフュージョン」 伝統的な日本料理にモダンな西洋の技法を取り入れた料理、例えば抹茶とトリュフを使ったフォアグラの寿司や和風味のフォンダンショコラ。これら斬新な試みも保守的な貴族たちの味覚には合わず、評価は芳しくなかった。 メインディッシュは「幻の食材シリーズ」 深海魚のムースや希少な野生キノコを使ったリゾットなど、特別な機会にふさわしい幻の食材を使った料理。これら珍しい食材は富豪たちには理解されず、反感を買ってしまいました。 「君は原価率がグルメだと思ってるのか?」 「上質生ロースを貪り喰う犬ではないぞ」 とどめのひと言が山岡の心を折った。 「食は一大エンタメ。そう信じて包丁一本で捧げてきた。なのに俺は」 何者なのか。 「山岡 健太郎 、35歳の料理人であり、天才的な才能を持つ料理家です。彼は幼いころから料理に興味を持ち、数々の名門レストランで修行を積んできました。その才能を認められ、若くして自身のレストランを開店しました。 山岡は料理を通じて人々の心を癒し、幸せなひとときを提供することを信念としています。彼は料理の力が人々の絆を築く手助けになることを願っており、常に新しいアイデアや技術を追求しています。 また、山岡は人柄も非常に温厚で優しい性格です。彼は料理を作るだけでなく、お客さんとの会話や笑顔を大切にしています。そのため、多くの人から愛される存在となっています」 聞き終わると蝋燭で二人の影が揺れた。岩塩坑を改めたレストラン。訝しい会話が続く。 「タオバオ伯の顔に泥を塗ってくれたそうじゃないか」 「客は仕込みです。料理番を失って勢いも削がれましょう」 「そこまでしろとは頼んでないが」 「長い物には巻かれろですよ。次期将軍となるお方には」 「うはは。その舌鋒が血で濡れぬようにな」 怪しい男と将軍は湿った木戸を閉めた。月が淀んでいる。 パチパチと香ばしい実が爆ぜていた。住処としていた店を追い出され僅かな調味料と料理器具を帯びて山岡は寒空の下で腹ごしらえをしていた。幸い公園には食べられる草木がある。 失意のどん底にいた山岡健太郎は、無意味に感じる足取りで流れ着いた。知人の発案による彼の最新の料理企画は惨憺たる結果に終わり、メディアに「天才料理家の失墜」と書き立てられていた。彼の心はまるで重い鉛のように沈んでいた。宮廷までの近道と聞いたのに。 夜半過ぎ、彼は、ただひたすらに、炭火で野菜を焼くことに集中している。この静寂な時間が、彼にとっての唯一の慰めだった。 突然、遠くで犬の遠吠えが聞こえた。その悲しげな音色が、山岡の心の琴線に触れる。しかし、彼がその感情に浸る間もなく、野犬の群れが姿を現した。彼らは飢えと好奇心に駆られ、バーベキューの匂いに引き寄せられてきたのだ。 山岡は直感的に包丁を握りしめた。野犬たちの目は野生の鋭さで輝いていたが、同時に深い寂しさも宿しているように見えた。一触即発の緊張が空気を支配する中、山岡は決断した。彼は包丁を下ろし、優しく、しかし堂々と野犬たちに声をかけた。 「大丈夫だよ、友達になろう。君たちもお腹が空いているんだろう?」 山岡の声には温かみがあり、その誠実さが野犬たちにも伝わった。彼らは徐々に警戒心を解き、一匹、また一匹と山岡の元に近づいてきた。彼は静かに野菜を切り分け、野犬たちに差し出す。犬たちは慎重に、しかし欲しそうにそれを食べ始めた。 この夜、山岡と野犬たちの間には、互いの孤独を癒す奇妙な絆が生まれた。山岡は彼らの目に映る寂しさを見て、自分自身の姿を重ね合わせた。彼らとの出会いが、彼の心に新たな光をもたらし始めていた。 木陰から山岡を呼ぶ声がする。クンクンと甘える犬を撫でていると「可愛いですか?」と男が近寄って来た。 「あんたの犬か?」 山岡は身構えた。しかし犬は男が連れているもう一匹に尻尾を振っている。 「散歩の最中に不審者の通報がありましてね」 男が態度を明かすと山岡はますます身構えた。だが犬達はは異様に人懐っこく、山岡と友達のようにじゃれついている。 「あんたも犬なら忠誠心の何たるかを知ってるはずだ」 動じない山本に男は感服したようだ。襟章を見せて言う。 「私は近衛師団の将校だ。頼みがある」 ジャドマ将軍の宿舎。深夜にも関わらず煌々と照らされていた。 「山岡さん、あなたの料理の才能には定評があります。そして今、私たちにはあなたの力が必要です」と将校は静かに言った。 山岡は怪訝な表情を浮かべたが、将校は続けた。「王様夫婦の間に起きている問題を、あなたの料理で解決してほしいのです。」 「料理でですか?」山岡は困惑しながらも興味を示した。 「はい。あなたには究極のメニューを作っていただきたい。そのメニューのテーマは『夫婦』です。王様夫婦の痴話げんかを仲裁し、ふたりの心をつなぎ直す料理を…」 山岡は深く思案した。失意の底にいる自分に、こんな大役が務まるのだろうか。 山岡は困り果てて頭を抱えた。夫婦喧嘩は犬でも食わぬと言われるように、夫婦の問題には他人が介入することは難しい。箸にも棒にも掛からぬという言葉もある。この依頼にはどうしても手を焼くことになるだろう。 「終生を誓った二人がなぜ嫌悪に?」 するとジャドマは周囲を見回し声を潜めた。 「後継者問題です」 「なるほど」 山岡が頷いた。 「王様と王妃は、長年の不妊の問題に直面しています。これは夫婦にとって大きなストレスとなっており、特に王妃はこの事実に深く悩んでいます。 王様は、夫婦間のこの未解決の問題に何らかの形で対処しようと考えました。彼は、子どもの代わりとして犬を贈ることで、王妃の心に癒しをもたらせるかもしれないと結論。しかし、これは王妃の犬への恐怖感情を無視した行動であり、かえって彼女を傷つける結果となったのです」 「つまり王様は、犬が妃に安らぎを与え、子どもがいない状況を乗り越える手助けになると考えたのだが、実際には夫妃の感情やトラウマを十分に理解しておらず。夫婦間のコミュニケーション不足と誤解を却って象徴したと」 「そういうことです」 しかしどうにも腑に落ちない。こんな大役を仰せつかる理由が不明瞭だ。 「俺はタオバオ辺境伯の顔を潰した男ですよ」 「そこなんです」 ジャドマは耳打ちした。王に嫡子がいない場合は属領の再編が帝国議会に諮られ実力相応の改易が行われる。タオバオは併合の野心を抱いている。その妃候補が集う晩餐会を司る料理人が不在とあっては焦りが募る。 「風雲急を告げる、か」 山岡は途方に暮れる。 「ご希望は電光石火で。緋鯰の生き胆も秒で整えます」 新生児誕生に備えた別邸には荘厳なキッチンが設えてあった。ドラゴンの解体も出来ると専門職が言う。「いや。モノがあってもな」 心を蕩かす火力は一筋縄では点かない。 しかしプロとして任されたからには尻尾を巻くわけにいかない。ましてや「驚嘆のメニュー」の雪辱もある。 クゥン。足元に犬が腰を据えた。将軍が散歩させていたこの個体こそが王妃に捨てられたミロであった。 「平和や親愛の象徴として、王様が夫妃との関係を改善し、平和を望む心から名付けた名前です」 「将軍、そのセンスから夫婦仲の原因が見て取れるよ」 山岡は指摘した。「そうですね。言ってはなんですが子犬の出来事は、夫婦間の長年の誤解と不満が爆発するきっかけとなります。王様はしばしば、夫人の好みや感情を無視して自分の意見を押し通す傾向があります。一方、夫人も王様に対して、自分の感情を適切に伝えずに内に溜め込む傾向があります」 「思いやりの暴走が一つの不幸を生んだ」 その犬はどこかくたびれた様子で、尻尾を巻いて小さく震えていた。まるで山岡自身のように、どこか世界から見放されたような雰囲気を纏っている。 「おい、ミロ。僕たち、似た者同士だね。」 山岡は犬に話しかけながら、ふと「負け犬」という言葉が頭をよぎった。彼は軽く苦笑いを浮かべた。犬もまた、人知れず「尻尾を巻いて」いる彼に同情しているかのようだった。 その犬は、人懐っこい眼差しで山岡を見つめていた。彼はその瞳に、自分自身の失望と同じようなものを見た。山岡はゆっくりと手を伸ばし、犬の頭を優しく撫でた。犬はそれに応えるように、軽く尾を振った。 「とにかく二人を癒すレシピから始めよう」 山岡は知恵を巡らせた。 夜は深まり、静寂がレストランを包み込んでいた。厨房の中、山岡健太郎の目は燃えるような情熱で輝いていた。テーブルの上には彼がこれまでに試作したさまざまな料理が並んでおり、彼はそれらを見つめながら、明日への期待を膨らませていた。 彼の心は、料理を通じて王様夫婦の問題を解決しようという決意でいっぱいだった。料理人としてのプライドと、料理が持つ力を信じる心が、彼を前進させていた。明日こそ、彼の技術と感性が夫婦の心を動かすと信じて疑わなかった。 厨房は彼の情熱で温かく満たされていた。彼は一品一品を丁寧にチェックし、細部に至るまで最善を尽くしていた。山岡は自分の料理に命を吹き込み、それぞれに特別な意味を込めていた。夫婦の絆、理解、そして愛情。彼の料理はそれら全てを象徴していた。 厨房の壁には、明日のメニューのラフスケッチが貼られており、それぞれの料理がどのように夫婦の心を繋げるかを緻密に考えられていた。山岡は自分の創作した料理が、ただの美味しい料理を超え、人々の心を深く動かすことを願っていた。 時計の針が深夜を指し示す中、山岡はまだ厨房にいた。彼は疲れを知らず、明日の成功を信じて一心不乱に準備を進めていた。この夜、彼にとって眠りは二の次だった。彼の心と魂はすでに明日の料理と夫婦の笑顔に向けられていた。 しかし、山岡はまだ知らなかった。彼の熱意と努力が、予期せぬ結果を生むことを。彼の料理が夫婦にどのような影響を与えるのか、その答えは明日が明かすことになる。 決戦の太陽が中天をよぎった。 豪華な食堂にて、山岡健太郎の心を込めた料理が王様夫婦の前に運ばれた。皿の上には、「絆の繋がり」シンフォニーと題された料理が美しく配置されている。一方には王様の好物であるジューシーな肉料理、もう一方には王妃の好む繊細な魚料理が並んでいる。 「これは…」と王様が言葉を詰まらせた。彼の目は、異なる二つの料理が一つのプレートに共存する様子に疑問を投げかけていた。 王妃もまた、複雑な表情を浮かべながら料理を眺める。「夫婦の共存を表すというのは理解できるけれど、これはちょっと…」と彼女は静かに呟きました。 続いて運ばれたのは、「共鳴する味覚」デュオ。同じ野菜を使ったヴィーガン料理と肉料理だが、この試みも夫婦の反応を引き出すことはできなかった。王様は肉料理に手を伸ばしたが、一口食べてから首を横に振りまる。「違う、これは違う…」と彼はつぶやいた。 デザートとして提供された「心の融合」デザートも、夫婦にとっては意外性が強すぎた。チョコレートとバニラのムースが合わさったこのデザートを見て、王妃は首を傾げる。「私たちの関係とこれがどう結びつくのかしら…」 王様はため息をつき、静かに言いった。「山岡さん、あなたの努力は認める。しかし、料理で私たちの問題が解決するとは思えない。」 山岡は沈痛な表情で立ち尽くした。彼の料理が王様夫婦の心に届くことはなく。彼の料理は技術的には優れていたかもしれないが、夫婦の心の奥底にある問題を解決するには至らなかったのだ。 夫婦は静かに食堂を後にし、山岡は深く考え込むことになりました。彼の料理が持つ力とは何なのか、本当に人々の心を動かすことができるのか…この体験は、彼にとって大きな痛手となった。 「山本……」 項垂れる彼に王は最後通牒を突き付けるかに見えた。しかし「待って」と王妃が翻意を促した。 「ソラリア、私はまだ何も言ってないぞ」 王は苦笑し今回の労を労った。そして料理番として残るよう説得した。何しろ食い合わせはともかく味も調理も歴代の群を抜いていたからだ。 「仕事が忙しく夫婦一緒もままならぬのだ」 「帝国議会ですか」 「そうだ。そこで頼みがある」 「夜食かよ!」 山本はくさった。しかし、彼は天才料理家としての自信もあり、料理の力で人々の心を癒すことができると信じていた。そこで彼は、めげずに調理場で新鮮な獲物を捌いていたのだが…。 夜の帳が深く降りた中、厨房は活気で満ち溢れていた。山岡健太郎は王様への夜食の準備に没頭している。彼の手際は舞台上のダンサーのように優雅であり、それでいて力強い。そこへ、王妃の侍女が犬、ミロを追って厨房に入ってきた。彼女は普段犬を避けるが、ミロの無邪気さに次第に心を開いていた。 侍女の目はふと、厨房の隅に置かれたウサギのケージに留まった。そこには山岡が夜食の主役として丁寧に仕込んだウサギがいた。その小さな生き物は、侍女にとって無垢で無害な存在と映った。 侍女は静かにウサギに近づき、山岡に向かって切なる願いを口にした。「どうか、この子を助けてください。」彼女の目には慈愛の光が宿っている。しかし、山岡は一瞬の躊躇を見せた後、断固として言った。「これは料理の一部だ。」侍女は引かず、ウサギを守ろうとして山岡にぶつかった。 その瞬間、ケージが開き、ウサギが飛び出した。ウサギは優雅かつ力強く厨房を駆け巡り、その動きは風に乗る葉のように軽やかで、目にも留まらぬ速さだった。小さな心臓は、恐怖によって高鳴っていたに違いない。 王妃の侍女と山岡との間に生じた緊迫したやり取りは、一瞬の沈黙に包まれた。ウサギが逃げ出したことで、厨房の空気が一変し、緊迫した。 「ワンワン」 ミロが脱兎を、それを山岡達が追いかける。 「拙いな、このままでは御料林を抜けてしまう。馬を持て」 王は護衛に命じるが却下された。間に合わない。 「ならば仕方ない。弓を構えよ」 「なりません!」「その通りだ」 王の耳に見知った声が重なった。一人は我が君、もう一人は……。 「タオバオ殿か?」 「ご機嫌麗しゅう。王様、我が領土に御用ですかな」 小道を隔てて軍勢が集結していた。そこで王はようやく自分の愚に気付いた。 「還ろう、我が君」 しかしソラリアは一途にウサギを追いかけていった。後ろにミロが続く。 逃げ惑うウサギは、厨房の隅にある野菜のかごへと迷い込んだ。その中には山岡が丁寧に選んだ新鮮なさやえんどうが入っていた。ウサギはしばらく周囲を警戒するように辺りを見回した後、ゆっくりとかごに近づき、細く緑のさやえんどうを掴んだ。 緊張でひっそりとしていた厨房には、ウサギがさやえんどうをかじる小さな音が響いた。その音はまるで、安らぎの旋律のように聞こえた。ウサギは一つ一つのさやえんどうを慎重に、そしてかわいらしく食べ始めた。その様子はまるで絵画の一部のように穏やかで、見る者に心の安らぎを与えた。 ウサギのほっそりとした前足がさやえんどうを器用に持ち、その小さな口で噛みしめる様子は、まるで世界のあらゆる不安が一時的に消え去ったかのようだった。さやえんどうの青々とした色とウサギの柔らかな毛色が対照的に映え、その光景は厨房にいた全ての人々を癒やした。 山岡もまた、その光景に見入っていた。彼の心には、料理とは命と直接結びついていることへの新たな認識が芽生えていた。ウサギがさやえんどうを食べるその穏やかな瞬間に、彼は料理の本質について、より深く考えるきっかけを得たのだった。 ウサギの食事は、小さな命がもたらす大きな平和のメッセージのように、山岡の心に静かに響いた。彼はこの小さな生き物から、料理を通じて心を込めて伝えられる愛情と尊重について、多くを学んだのであった。 この一件は、山岡にとっても予期せぬ展開であった。彼は逃げるウサギを追う侍女の姿を見つめながら、自らの料理に対する哲学と、命の尊厳について深く思索していた。彼の心の中では、新たな疑問が渦巻いていたのだ。 料理は食べることが全てだろうか。確かに栄養は胃袋に納まる。 だがもっと大きな何かを忘れてないか。 「そうだ。料理は愛情だ」 山岡はウサギの食む「えんどうの鞘」に目をつけた。 「えんどうの鞘」は、昔話に出てくる魔法の道具で、何でも収納することができる不思議な袋のことでもある。山岡は、「夫婦」という食材をどうやって調理して提供するのか悩んでいたが、この道具を使えば、夫婦の胃袋に収めることができるかもしれないと考えた。 もう一つ山本は失念していた。王妃は肉が苦手だったのだ。 王妃は、山岡によって救われたウサギを優しく撫でながら、さやえんどうのスープを待ちわびていた。隣ではミロがウサギの毛を愛情深くなめている。 長い準備を経て、山岡はついに特別な料理を夫婦に提供した。彼の心を込めた料理は、夫婦の好みや感情を反映し、彼らの間の意見の相違やすれ違いを解消することを目指していた。 提供された料理は、夫婦の心情を映し出すように工夫されており、夫婦はその料理に驚き、感動した。彼らは徐々に笑顔を取り戻し、山岡の料理が心の壁を解けさせているのが感じられた。 山岡は夫婦が笑顔で話し合っている様子を見て安堵した。彼の料理が夫婦の絆を取り戻す手助けになったのだ。そして、彼は食事の残りを「えんどうの鞘」に収め、夫婦の心も元のようになることを願った。 料理と「えんどうの鞘」を持ち帰りながら、山岡は新たな旅に出発した。彼は料理を通じて心を通わせることの可能性を信じ、これからも人々の心を癒し、絆を築く手助けになることを願っていた。 逗留先の酒場で山岡は一通の手紙を受け取った。王の密使が言伝ていったものだという。彼は封を切るなり微笑んだ。そこにはウサギを愛でる夫婦とそれを見守るミロの肖像画が添えられていた。そして妃のお腹が膨らんでいた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!