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父が亡くなった。ヒデがずっと吠え続けるので、近所の村上さんが家をのぞくと、父は廊下で倒れていたらしい。
火葬が終わり、お骨と一緒に父の家へと帰ってきた。広い玄関に残された父のサンダルが、きちんと揃えられていてなんだか寂しそうだった。そこに私や夫、子供たちの靴が三和土を賑やかにした。主がいない静かな家に、私たち家族の会話が明かりを灯す。
「お母さん、ヒデ、元気ないね」
お気に入りの毛布の上で小さくなっているヒデの背中を、小五の彩斗が心配そうに撫でた。
「ヒデもおじいちゃん亡くなって寂しいんだよ」
中三の美紅も彩斗の隣にしゃがみ込んだ。並ぶ二人の後ろ姿がどことなく切ない。
私たちは着慣れない喪服を脱いだ。葬儀が本当に終わってしまったんだと実感する。なんだか肩の力が抜けてしまった。
七年前、母は闘病の末に息を引きとった。父なりに覚悟はしていたと思うけど、亡くなった時は相当落ち込んでいた。そんな様子を見兼ねて、私は譲渡会へ父を連れていった。元々父は犬が好きだったので、一緒に暮らすことで少しでも元気になれば……と、犬を飼うことを勧めた。
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