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犬の名前は「ヒデ」。母の名前、秀子から付けたみたい。つぶらな瞳でまっすぐに父を見て、垂れた耳がより愛らしい茶色の子犬だった。そんなヒデのお世話をしているうちに、誰の目から見ても父の表情は明るく生き生きとしてきた。
すっかりヒデにメロメロな昭和のガンコ親父は、ただの優しいおじいちゃんになった。
深いしわを顔にたくさん寄せて、目がなくなるほど嬉しそうにしていた父の顔も、愛おしそうにヒデを呼ぶ明るい声も、まだ脳裏に焼きついている。
「ヒデのお世話、どうするの?」
急に美紅が振り向いた。
「うちに連れて帰ってもいい?」
「もちろん! ヒデは家族だから」
二人ともヒデがうちに来ることを喜んだ。夫も頷いてくれた。借家はペット可だと聞いている。
そんなやり取りを知ってか知らずか、ヒデはゆらりと立ち上がり、鼻を鳴らした。垂れたしっぽを一振りして、のそのそと近寄ってきた。
「ん? ヒデ、何?」
「散歩したいのかな」
「え、散歩? 僕も行く!」
「私も!」
私が下駄箱の上の青いリードを手に取ると、しっぽがパタパタと揺れて、足踏みで身体が揺れ始めた。ヒデが喜んでいるのが分かる。
「そろそろお散歩の時間かな。ヒデはお利口だね」
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