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村上さんはしゃがんで、お別れを惜しむかのように両手でわしゃわしゃと首元を撫で回した。
「ヒデちゃん。正春さんの分まで、りっちゃんにいっぱいかわいがってもらいなさいね」
ヒデは村上さんの顔をペロペロと舐めた。村上さんは愛おしそうにヒデを抱きしめた。
「ヒデちゃんまでいなくなったら、おばちゃんも少し寂しいわぁ。でも、仕方ないね。これが私からの最後のおやつね」
割烹着のポケットから、ササミジャーキーを取り出した。
「散歩行く時、いつもヒデちゃんにおやつあげてるのよ。待て!」
目の前に差し出されたササミジャーキーをヒデはガン見している。村上さんもにらめっこをしているかのように見つめあっている。ヒデは待ちきれないと言わんばかりに、前足をパタパタさせて鼻息も荒くなる。次第によだれが出てきたのを見て、村上さんがふふっと笑った。
「よし!」
その一声を発すると同時に、ヒデはササミジャーキーに噛み付いてガツガツと食べた。
「ヒデちゃんの『待て』は、待ちきれない感じがかわいいのよね」
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