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世界最高峰の異教徒。
晴天。
ここは関西の幹線道路。交通アクセスがとても良い。しかしそれほど、有名ではない。南は奈良県。北は京都。西は大阪。その県境に三角形の囲まれた田舎の都市間道路。
機科学幹線道路と呼ばれている。実はこの機科学の幹線道路沿いにある全ての市町村の1部分は機科学道路産業公団の管理下にある。
〓〓素材提供元:photoB様
「皆さん。私はここ、機科学幹線道路の道路産業公団総司令部本館に来ています♪」
日本東部の新都心からテレビ局の取材でやってきた。そこの女性キャスターが地方ロケをしている。
「ここは日本、国際社会の未来がかかっている稀有な地域です」
女性キャスターは解説していく。
機科学幹線道路沿いの市町村の1部は行政的に多重行政化している。
「今、ここに国連宗教難民救済事業機関の外相陣が訪日されています」
番組のゲストコメンテーターからの質問が女性キャスターへと届く。訪日いしてる「国連宗教難民救済事業機関」とは何なのかである。
「 United Nations Relief and Works Agency for Religion Refugees in the Near Gobal。略称はUNRWARRNG。宗教間対立におけるあらゆる問題の交渉を担う国連機関です。今回は機科学幹線が持つ車道、鉄道、歩道などの建設技術の支援を求めに来たそうです」
機科学幹線道路が持つ建設技術は世界中――特にアジア圏、アフリカ圏で大いに貢献している。道路、水道、電気、管理もしやすく自然災害からの復旧も問題ない。ローコストで保守管理できる。
機科学幹線道路の公営企業では建設機械も開発増産販売もしていて世界中に流通している。
「皆さんもKIKAGKUという名称を耳にしたら建設メーカーの社名を思い浮かびますよね。実はKIKAGAKUは民間企業ではなく、半民半官の公営企業なんですよ。そして皆さん、苗字に機科学という呼称のついた方がいたりしますよね?」
番組スタッフと女性キャスターが進行しながら道路産業公団総司令部本館に近づいていくと、横切る制服姿の女生徒がいた。制服の名札を目にした女性キャスターは思わず、マイクで本人の了承なく質問してみる。
「お嬢さん、失礼します。お名前は?」
「機科学電路王貴人。中学……3年生です……」
柿の色合いのした制服。紫色のセミロング。緑色の眼。眉根をひそめた表情から冷たい視線を常時周囲に浴びせているかのようだ。
「たまたま、偶然にここにおられました機科学という言葉が苗字にくっついている方が♪ というようにこの機科学幹線道路には多くのこの苗字の方が在住されています」
機科学電路王貴人――周囲からの愛称、おーきどはたて続けの質問から逃れるために早足で目的地の道路産業公団総司令部本館を目指す。
本来、彼女はここに来たくはなかったが、学年で成績最下位のために補講を受けるように担任教諭から指示されたのだ。
「私は忙しいですのに……。先生は……もう……」
中間テスト最下位、期末テスト最下位。少しでも希望の高校に進学するためにはこうして落第生たちは道路産業公団総司令部本館にて補講を受けさせられる。
道路産業公団総司令部本館内部に入る。1階はとても広くて様々な手続きのための窓口がたくさん点在する。おーきどは学生手帳から1枚のカードを取り出す。幹線動的設備利用免許証と書かれている。それを窓口担当の総司令部職員に手渡す。
「第09公団管区の村役場区域の方ですね。補講申請をお受けしました。補講学級が2階にあります。あと、海外からのお客様が来館されて当館の重役の方と会談されておりますので邪魔にならないようにお来をつけください」
おーきどは幹線動的設備利用免許証を受け取って近くのエレベーターへと進む。幹線動的設備利用免許証とは、機科学幹線道路の管理区域で暮らす上で必ず携帯しておかないといけない。無免許は多重行政下の区域で暮らすことは禁止されている。機科学幹線道路の市民権と呼ばれる代物である。
おーきどはエレベーターを目指す。その途中、人とぶつかってしまう。
「すいませんです」
「……」
おーきどは謝ったが、ぶつかられた人は男性だった。茫然としている。沈黙したままであり焦点があっていない。その男性に少し怖さを感じておーきどはそのまま進む。
おーきどはエレベーターで2階へと上がる。降りて進むと第1~第4と書かれた「補講室」という教室があった。おーきどが行かなくてはいけないのは「第4補講室」である。2階廊下の最奥の部屋は応接室となっている。そこには変わった服装の集団が廊下に2列に分かれて立っている。それらは黒い服を着た牧師。黒い僧衣を纏った住職。中東によく見るターバンを頭に巻いた中東の宗教信徒。全員が黒一色である。
恐らく国連宗教難民救済事業機関の国連公務員だろう。その組織は詳しくは不明であるが世界中にあるあらゆる宗教間の仲介的国連機関である。
おーきどは視線が合ったので常に冷徹な視線で相手を見ているが、一応、作り笑いでもスマイルを向ける。国連宗教難民救済事業機関の国連公務員は少し表情を引きつらせながらも会釈をした。
そのままおーきどは補講室に入る。
第4補講室には1人の生徒がいた。上半身から膝までを白い大人用ブラウスで纏っている黒い長髪の少女。そばかすが目立ち、それより大きな黒いふちの丸い眼鏡をかけている。
「姉番長。ごっつぁんです!!!」
不釣り合いの大人用ブラウスを纏う女子小学生6年の補講生徒が頭を下げて挨拶をしてくる。
おーきどは即刻、注意を敢行する。
「機科学内海瀬戸。そういうのはいいから……。私は不良じゃないしな……」
「何を申されるでごわすか!!! 姉番長は落第生中の落第生。誰もが悩みを打ち明ける存在でごわす!!! おいどんは姉番長と義妹の契りを交わしているんでごわす……行っちゃったどもす♥……きゃ♥」
赤面させて照れだす。瀬戸の顔の周囲にはないはずのバラがいっぱい出現して義姉との禁断の恋を彩る。しかしそれはおーきどのデコピンで一瞬で粉砕される。額が赤く腫れて瀬戸は泣き出す。
「姉番長!!」
「瀬戸!! リーゼントがもーすぐ来る。着席しますよ!!」
冷たい視線のまま、妹分の瀬戸に命じる。瀬戸は姉御の命令には忠実に服従して着席する。この補講室には4席ほど勉強机があるが、クラスメイトは瀬戸とおーきどだけである。
チャイムが鳴り、補講室に誰かが入ってくる。赤いジャージに竹刀を持ち、ホイッスルをネックレスのように首にぶら下げている。取り分けポイントなのはリーゼントであることだ。
「補講担当の柄頭だ。よろしくな。機科学電路!!」
柄頭が呼ぶとおーきどは顔を真っ赤にして素直に従い、起立と述べる。それに唯一のクラスメイトで妹分の瀬戸はハンカチを取り出す。それを加えて涙を流しながら悔しがる。
「どーしておいどんはこんな危険な3角関係でなったんでごわすか(´;ω;`)!!! ズルイでごわすよ、先生!!!」
「機科学内海。いつも言っているが静かにしなさい。今から補講を行うから2時間だ」
日祝以外、月曜から土曜まで放課後、この補講室でおーきどと瀬戸は将来のために補講を受けている。柄頭は機科学幹線道路管区内のどこかの高校に務める教師であり、残業として補講の業務を命じられている。
おーきどにとって補講室担任教諭は初恋の相手であった。柄頭は普段、敬語を使い、大人として振る舞うがそれだけははかり切れない男気を少女は知っているからだ。
授業が始まって柄頭は小学生高学年、中学生高学年に適応した授業を個別で行う。
授業を開始してから1時間後、柄頭は休憩時間をとると言い出す。おーきどが再び起立と述べた時だった。
第4補講室に何者かが雪崩れ込んでくる。それは先ほど、応接室近くの廊下で2列に分かれていた国連公務員だった。黒い牧師である。牧師の衣装はところどころ破れている。そして顔も傷ついている。
「どうしたんですか!!」
「気をつけろ!!……そいつは思想犯だ!!!」
牧師の国連公務員が指さす方向におーきどは見知った人間が佇んでいる。先ほど、1階でぶつかった黙ったまま男性であった。男性は唾液をだらだらと流している。
「思想犯? やだな……俺は……賛同したんだよ……」
その男は下卑たまま笑っている。男の額にいきなり「口」が出現する。口は下卑た嘲笑を浮かべながら口を開く。そこには赤い眼球がある。
「俺は陰謀論に従っているだけだよ。野盗政治。俺はそれに許されたんだ……」
男は高笑いをする。その時だった。補講室に新たな人影が現れる。ゴルフのアスリートの格好をした少女が入ってくる。しかも黒いゴルフユニフォームだ。不釣り合いに騎士甲冑の兜をかぶっている。片手にはゴルフクラブを握っている。兜の目元のカバーを開けて素顔を見せる。緑色の髪と碧眼が露わになる。
「先生とクラスメイトの方!! 大丈夫なんか? ワイはオリガルヒ・ピノキオー。国連宗教難民救済事業機関の外相や。無事みたいならええわ……」
関西弁だった。白人で欧州出身と柄頭は聞いている。オリガルヒはゴルフクラブを男へと向ける。
「おい!!! 思想犯!!! お前、野盗政治と言ったな!!!」
「そうさ!!! 邪教徒。この世は人の所有物なわけないだろ? 俺は従うね♪ 大自然のことわりに!!!」
男は叫び出す。すると、背中から大きな卵が現れる。その卵は大きな口を開いて男を丸呑みする。そして卵が割れる。そこに現れたのは巨大な爬虫類の人型であった。ファンタジー世界でいえば、リザードマンと呼んでいいだろう。頭部がティラノサウルスのような外観である。筋肉粒々としている。
「俺は野盗政治の強盗国民。欲しければ、自らが奪えよだ!!!」
強盗国民と名乗る男は両手に手斧を持っていた。それで襲い掛かる。オリガルヒはゴルフグローブの片手を握りしめる。そして何かを呟く。
「数多の宗教宗派に神格化という邪まな動機を許容してくださる唯一無二の邪神 ジャンナよ。邪気をこの手中にお授けください!!」
オリガルヒはゴルフグローブの手を広げる。そこにはゴルフボールがあった。それを足元に落とす。そして愛用のゴルフクラブでそれを打ち飛ばす。飛翔するゴルフボール。次に異変が起きる。ゴルフボール周辺にある補講室の教材や勉強机や椅子、教卓などが集まっていく。
「我が邪法は揺れて転がる塊!!!」
ゴルフボールはありとあらゆる物質を纏う。それは巨大な補講室備品の塊といっていいだろう。建物を壊す大型鉄球相当の大きさになった。
揺れて転がる塊は強盗国民に激突する。そうして強盗国民は両手の手斧を振るうことなく、粉砕される。肉片と血潮だけになり、元人間の男性は即死した。これで自体は解決かと思いきや第4補講室に5体の強盗国民が雪崩れ込んでくる。
「俺たちは野盗政治の思想を受けた……。この世界を終末の世界へと激変させてやる!!!!」
強盗国民は手斧や剣などで武装している。襲いかかってきた。オリガルヒは次のゴルフボールを用意すべくまたもやゴルフグローブで握りこぶしを作る。しかしそれを阻止しようと強盗国民たちが猛攻をしかけてくる。オリガルヒはゴルフクラブで応戦する。お陰であの揺れて転がる塊という特殊なゴルフボールは用意できないようだ。
「邪教徒!! お前らの得意とする邪法の詠唱を封じたら俺らの有利だ!!!」
1体の強盗国民は高笑いをしながら大剣を振りかざす。オリガルヒもゴルフクラブで打ち返す。大剣の刃が直撃してもゴルフクラブは無傷のままだ。
別の強盗国民たちは下卑た笑みを浮かべたまま、おーきどたちに近づいてくる。
「良い肉付きのいい小娘だな♪ 今日の俺の慰み者だ♪ 喜べ♪」
「2人とも俺の後ろに隠れていろ――う!!!!」
瀬戸とおーきどを守ろうと柄頭は竹刀で身構えようとする。しかし、いきなり足を地面へとついてしゃがみ込む。
「くそ……こんなときに後遺症が……」
全身に激痛が襲ってくる。柄頭は最近、あの喧嘩を仲裁するために深手を負った。教職には影響がないが運動ができるほど完治していない。
「おいおい♪ 先公が教え子を守らなくいいのかよ♪」
強盗国民は笑いながら手斧を振り上げる。すると、柄頭の前におーきどが立ち塞がる。
「……ん? 先生を守るために人身御供になる覚悟はできたか?」
「お前さ……。私の先生を罵詈ってくれましたね!!! 良いでしょう!!! お前らテロリストとして処理しますよ!!!」
強盗国民はおーきどから何らかのモーター音を聞き取った。何故、おーきどからモータ音が聞こえるのか理解できず首を傾げる。すると、おーきどの両目が発光する。そしておーきどの全身が女子中学の制服から女子バレーボールの衣装へと急変してくる。全身の肌がなんと装甲板と化していた。まるで女性のロボットである。
「な!!! お前は何なんだ!!!」
「え!!!! 噂話は本当だったんかいな!!!」
オリガルヒは強盗国民と鍔迫り合いしながら驚いた。
「私は古代兵器の末裔のHARPY。私の炉心臓は……」
ロボット人間と化したおーきどは掌を突き出す。すると、目の前に無数の光の粒子が現れて1点に集まっていく。
「高周波活性化オーロラ発電駆動……」
光のバレーボールが完成する。それを打ち上げて片方の手で叩きつける。光のバレーボールが叩かれて空中を疾駆する。そして1体の強盗国民の上半身に直撃して粉々に撃砕する。
「必殺、オーロラサーブ」
彫像のごとき、無表情。しかし口元から音声が聞こえてくる。
「機科学電路!! 国連宗教難民救済事業機関……邪教徒にその姿を見せてはいけない!!! 邪教はあらゆる宗教宗派の頂点に君臨している高次元宗教だ!!!」
柄頭が叱責する。おーきどは補講の担任が激怒する理由を理解している。
「兵器開発を放棄し……非核三原則も唱えた日本が……核兵器に匹敵する古代兵器の末裔を所有しているなんて思わんかったわ……」
「いいから残りを始末しなさい!!!」
HARPYに命令されてオリガルヒは怒って応じる。強盗国民たち残り4体は手斧や大剣を振るいながら肉迫してくる。それをHARPYは光のバレーボールを出現させて片手で叩き飛ばして2体の強盗国民を撃砕する。もう片方の2体も、オリガルヒが揺れて転がる塊で巨大な家具の塊を激突させて圧殺する。
4体の強盗国民を始末したら別動隊の強盗国民が襲ってくる気配がなかった。どうやら襲撃犯たちはもう片付いたということである。
HARPYは一瞬で元の生身の人間である機科学電路王貴人の姿に戻った。その刹那、オリガルヒはゴルフクラブの先端を機科学電路王貴人の首元まで突き付けてくる。
「外相!!!」
「大国の核兵器の傘の中にいる日本が何で核兵器級の脅威を保有しているのかワイら――国連宗教難民救済事業機関の常任理事宗教団体――「邪教」は事情を知りたい……。場合によっては……なんや!!! その冷たい目は!!!」
「私たち――古代兵器の末裔と全面戦争するつもりですか?」
機科学電路王貴人は冷笑かつ嘲笑を浮かべている。邪教は世界中の宗教宗派を支配している特権階級の高次元宗教団体であり、世界の支配層でもある。そこの外相であるオリガルヒ・ピノキオーに対して機科学電路王貴人は冷笑を崩さない。それにオリガルヒも恐怖を感じた。
「童話たる大陸国家を沈めた口伝の話は本当だったのかいな……。あの時……世界最古の宗教であるワイら邪教に協力したスーパーロボット軍団……パイロットとそのロボット兵器が完全に一心同体した末裔……古代兵器の末裔が世界のどこかでひっそりと暮らしているという伝説……」
オリガルヒはおーきどの脅迫まがいの発言に固唾を呑み込み、首を横に振った。
「上層部に確認をとるわ」
オリガルヒは鉄兜の防護面を戻して表情を隠す。すると、第4補講室に全身真っ黒の僧侶、牧師、中東信徒が駆けつけてきた。
「外相。お怪我はありませんか?」
「皆が無事なら安心したわ……野盗政治が日本まで影響しとるとは思わんかったわ。とりあえず報告と調査やな……ほな、失礼します……」
オリガルヒは付き人を連れて退室していく。柄頭はスマートフォンを取り出してどこかと連絡をとる。
「機科学電路、機科学内海。今日は帰宅しなさい。先生は総司令部に状況確認と報告をしないとけないから」
柄頭の指示を受け、今日の補講は中止となった。おーきどと瀬戸は帰路につくのだった。
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