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ペットショップにて
「さあ、ハーネスタイプを買えたことだし。散歩の続き行こうか」
『はい、行きましょう』
リードを付け替えて、いざ散歩の続きを……とショップを出ようとしたところで「在庫限り。3割引き」の魅惑の言葉が私の目に入った。
「あ、ちょっと待って」
凝視する私に大ちゃんが
『瑞穂ちゃん。僕ね、今ね、お母さんと瑞穂ちゃんには同じ血が流れているんだなって感じましたよ』
と言った。
(そりゃ、親子だもん)
でも、ちょっと不愉快に感じるのは気のせいかな?
「……大ちゃんは黙ってて」
黒い元の値段の上に貼られた黄色い値札シールの赤い文字。
並ぶ可愛い犬用の洋服に、かなりトキメク。
『まさか、僕に服を着せようとか思ってませんよね』
つぶらな瞳で、怪訝なことを言う大ちゃん。
「その【まさか】だよ。ねえ、大ちゃん。このセーラーデザインの服、ちょっと着てみない?」
夏物一掃セールらしい。
真夏を感じるセーラー襟の服を大ちゃんにすすめた。
『嫌ですよ、そんな窮屈そうなの』
「そんなこと言わないで、着てみようよ。絶対に似合うよ。可愛いよ」
『瑞穂ちゃん。セーラー服にときめくのってマニアですよ?』
なんでそんな言葉を知ってるの?
「大ちゃんだって、骨マニアでしょ? めちゃ集めてる」
『それは本能だから、仕方ないのです』
キリっとして答える大ちゃんに
「だったら、私も本能だよ。大ちゃんにはいつも可愛くいて欲しい。飼い主の本能」
とキリッとして言い返した。
「ね、このデザイン、最後の一着って書いてあるよ」
『そんな洋服屋の店員みたいな常套句に騙されないで。そういうのって、99.9999%在庫がある言い方ですよ』
「0.0001%本当かもしれないじゃん」
『もう。ああ言えば、こう言いますね!』
それ、今の大ちゃんが言う?
『そもそも僕には立派な毛皮があるから、そんなものは必要ないのです』
「さっき寒いって言ってたじゃん」
『時候の挨拶ですよ、あれは』
犬にも時候の挨拶があったのか。
『それに、服とはチワワとか毛が少ない犬種のためのものなのです』
「え? そうなの?」
『僕らはそのお国柄の毛皮に進化してますから。日本犬には無用です。ましてやハスキー犬とか寒い地方の犬に着せたら、灼熱地獄ですよ』
「へえ」
『……あくまでも個人の意見ですが』
なんかTVでよくある、何にでも適応できるフレーズをくっつけたな。
「でもさ、最近はホテルとかにも犬の同伴可になっているでしょ?」
『ホテル? 何、それ、おいしい?』
そっか。
大ちゃんと一緒にホテルにお泊りなんかしたことないもんな。
うちはお母さんが家に居るから、犬用ホテルも使ったことない。
未知のワードに、好奇心キラキラの目で私を見てる。
「素敵なとこよ。それこそおいしいもの食べられるところ。今度一緒に行こうよ」
と誘うと
『わー、行きたーい!』
おいしいものという単語に大ちゃんが大喜びした。
しっぽをブンブン振って喜んでいる。
「でも、そういうところではアレルギーある人への配慮で毛が飛ばないように服を着るのがマナーなんだよ」
『美味しいものの為なら致しかたありませんね』
ふふふ。
まだまだ二歳のわんこ。
チョロいもんだわ。
『服もマナーウェアも、パリコレモデルかってくらいに華麗に着こなしてみせましょう』
「……」
本当に大ちゃんって物知りだね……。
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