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彼は心底嫌そうに眉をしかめると肥後守を放り出した。
「ところであんた、実際幾つなんだ?自称三十半ばだそうだが、お仕着せを脱いでそうしていると本当に若く見える」
「関係無いだろう」
観念したのか、自棄になっているのか。彼はどこまでも投げやりな態度で聞き返した。
「君こそ、男を抱いた事なんてあるのか?ああーー戦地帰りならもしかして『嗜む程度』ってやつ?」
「実践には加わらなかった。歳が若いってだけでは抱かれる側にされるからな」
「君みたいな大男を?何それ傑作。見てみたかった!」
佐鳥は脚をぶらつかせながら初めて可笑しそうに笑った。
「あんた、上品な顔して意外と悪趣味だな」
「君こそ、元々男が好きって訳じゃないんだろ。なのに、僕の事は抱くんだ?」
佐鳥は挑発するように聞き返した。
「考え直せよ。報酬なら言い値で出すし、その方がよくないか?」
「あんただから欲しいんだよ。それじゃダメなのか?」
それまでの人を食ったような態度とは別人のように真顔で答える男に、佐鳥は声を立てて酷薄に笑った。
「似合わない事を……取り調べの時もそうやって駆け引きするの?」
「いいや。あんたのためだと思ったから、無理筋で越境捜査もしたし、禁も冒した」
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