1949(昭和24)年、8月29日

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 初秋の短い日がすっかり暮れたと思ったのは木立のせいだったようだ。不意にそれらが開けるとまだ青みの残る明るい夕空が頭上に、目指す建物が眼前に現れた。  車一台が通れるよう開け放たれた壮麗な門扉に、黒塗りの車やジープが次々に吸い込まれていく。木崎達の乗って来た車のように、貧乏臭い木炭炉を背負ったオート三輪など一台もない。  同じ木炭車でも審美性を重視する輸入車や高級車は後部のボンネットの中に小型化した炉を上手に隠している。 「すごいですね。ビュイックが列になってるところなんて初めて見ましたよ」 「そうか?意外とあるもんだぞ。皇居の二重橋なんてGHQ御用達の駐車場だからな」  木崎が皮肉たっぷりの口調で、珍しく安井の雑談に応じた。 「何ならガソリン車まで来てるんじゃないか?ここは」  安井は門の中に乗り入れることはせず、敷地を取り囲むコンクリート塀沿いの目立たない場所に車を停めた。 「ガス溜めてエンジンかけて、走り出すまでがまた三十分だろ。出動するのに一時間もかかる警察車両なんざ、警察車両とは言えまい」  木崎は不機嫌そうに言い捨てると荷台から飛び降り、安井と連れ立って装飾過多気味の門をくぐった。
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