序・王子と野獣

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 苛立ちが頂点に達した佐鳥は天板を叩いて飛び降り、 「言葉遊びや判じ物につき合う気はない。結論を言え」  と叫んだ。  木崎は突然彼との距離を詰めた。逆に追い詰めるように机に両手をつき、頑丈な閉じ込めてしまうと耳元で囁いた。 「あんたの弟、柾規は生きている」  男を睨みつけていた佐鳥の瞳が揺らいだ。 「……まさか君……あ、会ったのか!柾規に……」  木崎ははぐらかすように肩をすくめると身体を離し、芝居がかった仕草で後退りながら頷いた。 「ならば何故、僕の依頼通りここに連れて来ない?」 「本人が名乗り出るのを拒否している。言ったろう、裏があるって……表に出られない立場なんだ」  木崎はそう言うとコートのポケットから何やら取り出し、佐鳥に向かって放り投げた。思わず受け取ったそれは古びた新聞紙の包みだった。くしゃくしゃで今にも破れそうな脆い包みを開けると「しどういさみ」と記名された錆びた肥後守が出て来た。佐鳥は見る間に血相を変えた。 「どういう事だ!お前がどうしてこれを持っている」 「面白いな。普段はケースの中の国宝よろしく取りすましてるあんたが、そうやっていちいち取り乱すの」  佐鳥は手にした小刀で刺しかねない勢いで木崎を睨み返した。 「勿体ぶるな。知ってる事を全部話せ」
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